メコンデルタの歴史伝える「ビントゥイの旧家」 カントー市

ベトナム南部、メコンデルタのカントー市にある「ビントゥイの旧家」は、150年近く前に建設された歴史ある建物だ。隣接するドンタップ省ニャマン地区から、かつてタイドウと呼ばれていたカントー市に移り住み、この地を再生したズオン一族のかつての居宅だ。

カントー市のビントゥイ区、ブイ・フー・ギア通りに建つこの家は、1870年、ズオン家初代のズオン・チャン・キさんが建設を始め、20年間かけて完成させた。20世紀の初頭に修復を施し、現在まで大切に保存されてきた。現在は、ズオン一族の6代目となるズオン・ミン・ヒエンさんが所有している。

建物は国家の芸術建築遺跡に認定されているほか、2013年には、ユネスコベトナムによる「ベトナムのもっとも印象的な建築物トップ100」にも選ばれている。その美しいたたずまいから、たびたび映画などの撮影地に使われており、フランス人監督の映画「L’amant」(ラマン=愛人)」の舞台になったことで、国内だけではなく、世界的にも有名になった。

家の外観は、東洋と西洋の文化が融合した、繊細な建築様式を今に伝える。家の床は、外の庭面より1メートルほど高くなっており、外に降りるための階段が、弓のような優雅な形で二つ設置されている。通気性をよくするため、建物にアーチ状の窓がたくさんあるのも特徴だ。

壁面の模様もとても美しい。木のドアや窓飾りなどは20世紀のアールヌーボー調のスタイルで、ドアや窓の上の壁にはぶどうの模様が石膏で作られている。

この家がすばらしいのは、建物だけでなく、室内の装飾や調度品なども、かつてのものがきれいに保存されていることだ。広間には、祖先の霊を祀るりっぱな祭壇が置かれ、食器棚、重厚なテーブルや椅子などが並べられている。家具類はすべて貴重な木材を使って最高の技術を駆使して作られており、全国の優秀な職人が彫刻などを施したものだ。


室内に置かれた家具や調度品もクラシックで、歴史を感じさせる

室内の床には、赤と黒のバラの花がモチーフにしたタイルがあしらわれている=写真㊤。フランスから持って来られたものだというが、敷設から148年間が経っても、いまだに美しい模様と色を保っている。室内の壁は、セメントではなく、木の樹脂と粉末の石灰、山砂などを練り合わせた特殊な漆喰仕上げだ。

屋根は石灰や瓦などを使って3層の構造にされ、明るさや、風通しを確保している。建物の垂木や高さが4~6メートルにもなる柱には、貴重な木材が使われ、しっかりとした構造を作っている。


屋敷を案内してくれたヒエンさん

庭も含めた総面積は、約6000平方メートルに及ぶ。庭には、木や花がたくさん植えられ、一年じゅう、緑で涼しい空間を作っている。ホーチミン在住の富豪から、100万ドルでこの家を買い取りたいという申し出があったこともあるが、ズオン一族は愛着のあるこの家を決して売却しなかった。

今年92才になるヒエンさんは、この古い家を今後も維持するための最善の方法について考えているところだという。

「家はズオン一族の先祖をまつる場所として、家族にとっての思い出のある場所であるだけではない。国の芸術的建築遺跡であり、メコンデルタ地方、カントー市にとっても他にない貴重な遺産なのですから」とヒエンさんは語る。