国の急激な経済成長で、ベトナム製品は近年、多くの海外市場から注目を集めるようになっている。なかには、テトの縁起物とされてきた石膏製のブタの貯金箱など、ベトナム特有の製品もあるというから驚きだ。長年、伝統の置物作りを手がけてきたハノイ郊外の工房を、ベトナム経済新聞(VEN)が取材した。

膏製のブタの貯金箱は、かつてはどこの家庭にもあり、人々が困ったときのためのお金をコツコツ貯めるのに使われていた。家族の繁栄の象徴でもあることから、テトの到来を告げる縁起物のひとつでもあり、人々のノスタルジアをかきたてる。子どもたちにとっては、貯めたお年玉やお小遣いを使うためにブタを割る高揚感が、忘れられない経験となる。

懐かしさをおぼえたなら、ハノイ市フックトー地区にあるズオンホン村へ行ってみよう。目を引く色柄が施され、子どもだけでなく大人をも魅了する、いまどきのブタの貯金箱に出会うことができる。

ズオンホン村で20年以上もブタの貯金箱を作り続けているズオン・ゴック・チュアンさんが、工房を案内してくれた。59歳のチュアンさんは、「ブタの貯金箱作りは難しくはない。だが、細部に注意を払う手先の器用さが必要だ」と話す。

石膏を型に入れて作ったブタは、乾燥させ、表面を滑らかに仕上げて、磨きあげる。その後、色鮮やかな模様で絵付けをする。工程は単純だが、見かけほど容易ではなく、特に天候に仕上がりが大きく左右されため職人技が要求される。好天なら多くのブタを作ることができるが、途中で雨がふれば全製品がだめになってしまうこともある。また、乾燥しすぎると、ひびや色あせが生じるので、職人たちは神経を使う。

だが、チュアンさんは、このやっかいな仕事が大好きだ。旧正月(テト)のお年玉を手にした子どもたちが使う様子を想像するのが楽しいのだという。

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実はこのインタビューはたびたび、工房にかかってくる電話で中断された。「新規の注文の電話だ」とチュアンさんは説明した。

チュアンさんの工房では、旧暦の8月から翌3月まで、多忙を極める。最近では、販売業者らの需要に、生産が追いつかないほどだ。特に、2019年がブタ年であるため、昨年は注文が激増した。注文を納期に間に合わせるために、チュアンさんと工房の職人たちは、毎朝4時起きで増産にあたったという。

2018年の11、12月には、1回あたり1200~1500個の貯金箱を引き取りに、トラックが3日おきに工房に通っていたという。製品の価格にすると約2000万ドン、その20~30%がチュアンさんらの儲けとなる。「職人がもう少し多ければ、3日ごとではなく、2日ごとの出荷ができるんだが…」とチュアンさんは言う。

約500平方メートルの広さの工房は、年間3億ドンの利益を生み出し、毎月500万~600万ドンの月給を10人の職人に支払えるほど安定している。それだけでなく、チュアンさんと彼の親戚たちが近所の村人たちに石膏製の貯金箱作りを教えたため、技術が継承され、多くの世帯が自立できるようになった。現在では近隣のタイン・ダー地区などに7つのブタの貯金箱製造の拠点ができており、国内あちこちで販売されているほか、一部は海外にも輸出されている。

チュアンさんの工房のブタも、海外からの引き合いがとても多いのだという。きっかけは、2015年3月、チュアンさんの親戚が中国の通販サイト、アリババにこのブタの貯金箱を紹介したことだ。色鮮やかな製品が外国人顧客の目にとまり、アメリカのペンシルベニア州の業者から、「2500個のブタの貯金箱を7色のバリエーションで作ってほしい」との注文が舞い込んだのだ。

海を渡った最初のブタたちは、国内の約10倍の価格で購入された。チュアンさんはそのときの興奮が今も忘れられないという。「新たな販路を見つけるために、今後も、うちのブタたちは品質を向上させデザインも改良していくよ」とチュアンさんは笑顔を見せた。