起業家のファン・ティ・トゥイ・フオンさんは、生分解性プラスチック製のバッグをベトナムに普及させて、よりクリーンで環境意識の高い生活を実現することに人生を捧げてきた。生分解性プラスチックは、微生物の働きによって最終的には水と二酸化炭素にまで分解されるため、環境にやさしいプラスチックとして注目されている。

写真㊤=地球環境を守る生分解性プラスチックバッグについて語るファン・ティ・トゥイ・フオンさん(右から5番目)

ただ、フオンさんのスタートアップストーリーは、奇跡の連続というわけではなかった。彼女は自身の情熱と強い信念で、スーパーマーケットや市場に働きかけて、生分解性プラスチックバッグの普及を推し進めてきた。

フオンさんは、The Southern Sub-Institute of Geosciences and Mineral Resourceで鉱業の専門家として教育を受け、生分解性パッケージの製造に特化したベトナムで最初の企業に勤務した。

従来のプラスチックバッグ(ビニール袋)は、分解されるのに数百年もかかる可能性がある。これらが地球環境に放出される危険性を知ったフオンさんは、天然資源・環境省認証の生分解性プラスチックバッグを生産するために、ゼネラルⅡトレーディング・マニュファクチュアリング社(the GENERAL II Trading and Manufacturing)を創業した。

同社は現在、国内市場に向けて毎月約50トンの生分解性プラスチックバッグを供給し、海外に向けては、生分解性に限らずあらゆる種類のプラスチックバッグを毎月約100トン輸出している。輸出先は、オーストラリア、ドイツ、フランス、イタリア、英国、シンガポールなどだ。

製品の普及に関しフオンさんは、生分解性プラスチックバックの社会認識を高めるため、小さな市場を回って、これらの製品を使ってもらえるよう販売業者を説得していった。社会的な機関やトレードセンター、スーパーマーケット、商店なども訪れて、生分解性プラスチックバッグの利点や現状のバッグの危険性を訴えたが、こうした彼女の粘り強い努力は、ついに実を結ぶこととなった。

彼女が創業したゼネラルⅡトレーディング・マニュファクチュアリング社が、ホーチミン市天然資源・環境局やホーチミン市女性連合、環境問題に取り組む団体などのパートナーとなったほか、最近では、ダナン市リエンチェウ区が同社と連携して、販売業者や消費者に生分解性プラスチックバッグを提供するため、1kg当たり20,000ドン(約95円)の補助金を出すことにした。

ヨーロッパやアメリカ、カナダといったほとんどの先進国は、生分解性プラスチックバッグを早くに導入しているが、ベトナムでは、これらの使用はまだ始まったばかり。現在、国内に生分解性プラスチックバッグのメーカーは20社しかなく、いずれもその開発に苦労している状態だ。

フオンさんによれば、生分解性プラスチックバッグは、英国から輸入したプラスチックビーズから作られるため、価格は通常のバッグより7~10%高くなる。こうした高い価格が販売業者に敬遠され、また消費者も無料の既存バッグがある中で、敢えてこのバッグを買おうとしない傾向にある。

ホーチミン市商工局によると、同市の市場で1年間に消費されるプラスチックバッグは、2010年は2,605トンだったのが、2015年には2,912トンとなり、この数字は今後も増加すると予測される。同市のトレードセンターでは、2010年には280トン、2015年には2倍以上の約615トンのプラスチックバッグが消費されており、こうした数字をみると、フオンさんの活動は実現すべき重要な課題と考えられる。

ただ、消費者の間でも、生活環境を保護し気候変動に対応すること、生分解性プラスチックバッグを使用することへの関心は高まってきている。国は、インセンティブを導入するなどして、こうした環境にやさしい製品の利用を促進すべきだろう。