観光コミュニティビジネスで成功 モン族女性のスーさん 「少数民族の子どもに教育の機会を」

ベトナムの観光業界の象徴として注目されている女性がいる。北部山岳地帯のラオカイ省に暮らす少数民族、モン族の女性、タン・ティ・スーさん=写真=だ。小学校も満足に通えなかったスーさんだが、努力の末に立ち上げた観光コミュニティビジネスが成功。事業を通じて、少数民族の子どもたちに教育の機会を提供し続けている。

スーさんは、中越国境地帯に広がる雄大な自然の中でのトレッキングなどの観光事業を提案する地元密着型の旅行会社、「サパ・オ・チャウ(Sapa O’Chau)旅行社」の創業者だ。2016年にフォーブス誌が選んだ「世界を変える30人30歳未満の偉大な人々」の一覧に名を連ねたひとりでもある。困難を乗り越え、創造的な価値を築いた観光分野の先駆者たちを紹介した同誌の特集記事、「観光物語-ベトナム版」でも紹介された。

だが、30歳にも満たなかった彼女が手にしたこのような成功は、彼女の経歴からは想像もつかないものだった。

現在33歳のスーさんは、世界的に知られる観光地、サパのラオチャイ地区出身だ。少数民族の多くがそうであるように、スーさん一家も米ととうもろこしの栽培で細々と生計を立てていたという。そして、一帯の多くの少女たちと同じように、スーさんもまた、9歳になると、家計を助けて働くために、学校をやめざるを得なかった。

今では外国人観光客が押し寄せ、商業化されたサパだが、スーさんの幼少時は、それほど観光化されていなかった。たまに訪れる外国人観光客がいても、英語を理解できなかったため、コミュニケーションをとることができなかったという。

スーさんは、同じモン族の少女たちとともに、街に出て観光客に刺繍の手工芸品などを売っていた。彼女にとっては、わずかな現金収入を得る唯一の方法であると同時に、英語を聞きかじる機会となった。英語に興味をもったスーさんは2004年、サパで初めてインターネットが利用できるようになると、露天商として働きながらインターネットで英語を学び始めた。観光客と英語を話す機会を求めて、ホテルでも働き始めた。少し上達すると、観光客を案内するガイドをはじめる一方で、英語の上級講座も受講数など語学スキルを磨き続けた。

彼女のこのような背景と長年の苦労が、現地の観光ガイドと外国観光客を橋渡ししながら、山岳民族の子どもたちの就学支援をするプロジェクトの設立というアイデアをもたらした。2007年、スーさんはオールトラリア人の友人とともに、ラオチャイ村で「サパ・オ・チャウ」プロジェクトをスタートさせた。ラオチャイに暮らすモン族コミュニティに根付いた、初の観光施設となった。

2011年には、ベトナムの社会支援組織、「社会貢献推進センター(CSIP)」や、職業訓練などを展開する社会支援組織「KOTO」からの支援を受け、スーさんは企業運営や人材マネジメントなどを学ぶことができたのだという。

社名の「O’Chau」とは、現地の言葉で「感謝」の意を表す言葉だ。その名前どおり同社は、そのサービスを享受する外国人観光客や、会社からさまざまな形で恩恵を受ける地元の人々など、多くの人々から感謝される存在となっている。事業内容も年々、専門性を増した。刺繍の手工芸品の販売やチャリティ業務などに加えて、本業となる観光業部門も大きく成長。ケータリングなどの飲食サービスにまで事業は多様化され、手広く展開されるようになっている。

サパ・オ・チャウ社は今では、サパ市内や周辺の少数民族の村々へのさまざまな形での観光ツアーを企画し、英語を話せるガイドの派遣を行なっている。一方で、少数民族の民家でのホームステイを企画するなど、多くの村人たちが観光業に携わるきっかけを提供した。さらには、何百人もの少数民族の子どもたちに住まいを用意して、教育やさまざまな人材育成訓練を受けるチャンスを与えている。

「私が築いた『コミュニティ観光』のビジネスモデルは、サパで多くの貧しい子どもたちの生活を改善させた」とスーさんは話す。このような試みは、サパ以外にも広がりを見せているという。「ベトナム各地の山岳辺境地や少数民族の子どもたちにとっても、観光が救いとなってほしい」。スーさんは願っている。