消え行くベトナムの伝統的市場 民間投資の誘致が課題

伝統的な市場は、ベトナムでは単に行商人が日銭を稼ぐ場所ではない。それぞれの土地ごとに特徴があり、地域の文化や特性を保存継承するのにも大きく貢献している場所だ。暮らす人々も市場の重要性や必要性を訴えているが、一方では、投資をする民間企業が少ないなど、さまざまな課題に直面している。

◇公的投資の不在
ベトナム商工省は、伝統的な市場を、「都市部から離れた地方などを中心に、依然として流通の重要な役割を果たしている」と位置づけている。2018年の年末までの統計では、ベトナムには8475の市場があり、そのうち229が1等市場だった。903が2等市場、7205が3等市場の位置づけで、138箇所はまだ未分類とされた。ベトナムにおける商品やサービスの全売上高の約40%は、伝統的な市場の販売流通網を通じたものだという。

多くの施設で老朽化や場所の狭さなどが問題となり、改善を迫られているが、さらに重くのしかかるのが、2003年や2009年に政府が交付した政令で、「公的資金を市場の建設や改良、修繕などには使用できない」とされたことだ。

民間からの投資誘致に成功したいくつかの地域では、農村に近代的な流通をもたらすことができたという。再建や修繕などが行なわれたり、市場の経営モデルが改良されたりして、需要への対応が改善されたケースもある。

しかし、へき地や農村地域などの小規模な市場では、民間投資が継続的に行われず、伝統的な市場という流通経路が縮小しているのが現状で、いずれは市場が消えゆくのではとの懸念さえある。

従来の伝統的市場の経営モデルが議論されたあるセミナーで、ハノイ市建築計画局の局長を勤めた経験をもつ建築家のダオ・ゴック・ギエムさんは、「文化的で安全な建築空間であるということを前提に、交易の場所としての伝統的市場は保存されるべきだ」と強く主張した。

◇計画的な再開発が課題
前述のセミナー参加者の多くは、「ベトナムの伝統的な市場は、ベトナムの文化の特徴として存在感を保っており、すぐに新たな流通システムに置き換えることはできない」などと声を上げた。
だが、多くの市場は老朽化すると同時に、手狭な施設に雑多な店舗が無秩序に入居しているといった点で課題を抱えている。

商工省の関係省庁や傘下の団体、地方当局などが中心となって、市場の改良や再開発計画が推し進められてはいるものの、適切な計画を導き出すまでには、まだ、全ての手順を十分、検討検証する必要がある。

商工省は、地方の人民委員会や商工局などに対し、伝統的な市場を今後、発展させるための民間投資の誘致促進を求めている。一方で、伝統的な市場のネットワーク網をさらに発展できるよう、政令の改正や関連施策の補足などを政府に求めていくという。