ハノイ工科大学、キャッサバからナノセルロースの作製に成功=医薬品への応用目指す

ハノイ工科大学の研究グループは、医薬品や食品への応用に向けて、キャッサバの搾りかすから先端材料の「ナノセルロース」を作製し、工業利用の可能性を探る研究開発に取り組んでいる。この研究は、ベトナム商工省が推進する、バイオテクノロジーの用途開発プロジェクトの一環として行われている。

■搾りかすに大きなポテンシャル
キャッサバは、アフリカや東南アジアなどで栽培される常緑の低木で、イモの部分はタピオカ(デンプン)の原料となる。そのほか、動物飼料や紙、テキスタイル、アルコール、医薬品の開発にも使われ、現在ベトナムは、東南アジアで4番目の生産国で、輸出売上高は12億ドル(約1279億円)を超える。

また、キャッサバのイモからデンプンを抽出した後には、「キャッサバパルプ」と呼ばれる残渣が大量に残る。この一部は動物飼料やバイオガスの生産に用いられるが、多くは利用されず、環境汚染の原因にもなっている。

キャッサバパルプは有機物を豊富に含むため、しばしば有機肥料にも使われる。また、セルロース繊維を多く含むことを生かせば、新たな工業材料になる可能性があり、そのため、商工省はハノイ工科大学生物・食品技術大学院と協力して、残留デンプンとセルロースの回収に向けた研究を開始した。

■化粧品や樹脂材料の添加剤にも
ナノセルロースは、日本ではセルロースナノファイバーとも呼ばれ、木材チップから紙の原料になるパルプを作り、そのパルプをナノメートル(10億分の1メートル)のサイズにまで微細化した繊維を指す。日本の研究では、自動車の樹脂部材に混ぜて部材強度を上げる使い方などが検討され、例えば、ボールペンインキの添加剤といった一部用途では実用化も進んでいる。しかし現状、ベトナムでは全く新しい技術領域である。

キャッサバパルプからナノセルロースを作るには、まず、(パルプに残る)残留デンプンを回収してセルロース繊維を分離する必要があり、次に分離したセルロース繊維を漂白して、ナノフィブリル化セルロース(NFC)やナノ結晶性セルロース(NCC)を作製する※。試作段階では、NFCの回収率は60.2%、NCCの回収率は65%だった。ハノイ工科大学は、ナノセルロースを医薬品へ応用するために、保健省傘下の中央医薬品検査院と連携している。

ナノセルロースは、表面積が大きく、毒性がなく、生分解性があり、容易に改質できるというユニークな特性を持つ。このため、紙の強度を高める用途や、樹脂複合材料の充填剤・添加剤、超吸水性材料、柔軟で透明な薄膜材料、化粧品の添加剤、食品包材の酸素バリア剤など、様々な用途への利用が期待される。実験結果によると、NCCは安定剤や乳化剤に、NFCはその豊富な水分量と耐紫外線特性から、化粧品向け材料への転換が可能だという。

すでに同大生物・食品技術大学院は、NCCとNFCの生産技術を習得している。研究成果が実用化されれば、キャッサバ産業の生産価値を高めるとともに、残渣の有効活用の点から環境負荷低減にも貢献すると考えられる。

※NFCやNCCを合わせて、ナノセルロースと言う。