旧市街に残る“国家誕生の地” ホー・チ・ミンらの隠れ家

古い民家や商店など、風情ある街並みが残るハノイ旧市街地。歴史的なスポットも多く、ハンナンストリート48番地にひっそりとたたずむ建物もその一つだ。ここは74年前、ベトナム民主共和国初代主席のホー・チ・ミンがベトナム独立宣言を起草した場所で、建国の父の秘話を伝えるメモリアルハウスとして毎年、国内外から大勢の人が訪れる。

写真㊤=室内には、オーナーで革命を支えた資産家、ティン・バン・ボー夫妻の写真や独立当時の記念写真などが並ぶ

1945年、ハンナンストリート48番地には、絹製品を扱う「フックロイ シルクショップ」の看板が掲げられていた。しかし、それはあくまでも表向きの姿。実際は、革命運動家の隠れ家だった。ハウスは70年以上が経過した今も、当時のままの姿をとどめ、室内にはゆかりの品々が展示されている。

一階には、ホー・チ・ミンが1945年に独立宣言を読み上げた際に着ていた人民服や、当時使っていた籐製のスーツケースなどの遺品や写真を展示。革命勢力の中央委員会の執務室として使われていた2階の部屋の中央には、長方形のテーブルとうち一脚だけが他のものより大きい四脚のいすが配置されている。この部屋こそが、ホー・チ・ミンと中央委員会のメンバーが独立宣言を練り上げ、式典の段取りや政府要人のメンバーを決めた記念すべき場所だ。2階には、ホー・チ・ミンが独立宣言を執筆した部屋なども残されている。

革命を支えた資産家、ティン・バン・ボー氏の息子で、メモリアルハウスのオーナーのティン・カン・チン氏は、ここが隠れ家に選ばれた理由として、「シルクショップという看板がカモフラージュになるうえ、逃走に便利な2つの入り口があった」と説明する。

ハノイ文化財管理委員会のツアーガイド、クアック・チ・フオン・トラさんによると、ティン・バン・ボー夫妻は、2階のすべての部屋をホー・チ・ミンら革命勢力に提供。これらの部屋では1945年の8月25日から9月2日までわたって、国家の基礎を築く上での重要な話し合いや決断がなされた。また、1945年の八月革命で、夫妻は約100㌔の金を寄付。他の仕事仲間も集めて、20㌔以上の金を提供させるなど、財政面で国家誕生を支えたという。

建物は1970年、メモリアルハウスとして改修され、1979年に当時の文化情報省(現・文化スポーツ観光省)に国会遺産として認定された。