ハノイ伝統のタンロイ刺繍 若手育成などで地場産業に転換

ハノイ市中心部から約20キロ離れた同市トゥオン・ティン地区のタンロン村は、何世紀も続く伝統的な刺繍の手仕事で名高い。熟練職の減少などで先細りが危ぶまれたが、タンロンでは、若手職人の育成や洗練されたデザインの採用などで、伝統産業であった刺繍が、国内外へと市場拡大を図る地場産業となりつつある。

旧正月(テト)を前にタンロイ村を訪ねると、村は、忙しさと熱気に包まれていた。ベトナム国民にとってもっとも重要な祭日を前に増える需要に応えるため、職人たちが休み返上で制作にあたっているのだ。

ベトナムの自然や風景、伝承などを多彩な色と鮮やかさでつづるのがタンロンの刺繍の特徴だ。刺繍は、すべて手作業で行われる、自然や人々の日常生活の一部を切り取って描いていく。

熟練した職人の減少とともに、伝統的な刺繍技法の維持と発展は、いっときは障壁に直面した。地域を離れ、他の仕事に就く人も増え、家内制工業として続けている刺繍工房が多く、マネジメントやマーケティングの知識をもつ経営者は少ない。このような背景が、タンロイの刺繍の競争力を著しく低下させていたが、タンロイの刺繍職人たちは、職人たちを育成し、地元産業を維持しようと動き出している。

最重要視しているのが、若手の育成だ。著名な刺繍作家のグエン・クオック・スー氏が設立した「クオック・スー伝統刺繍教室」は高度な刺繍を学べる教育拠点にまで成長しており、近隣の手工芸村で作品を作ることができる刺繍職人を育てている。

同時に、農村部の人々に新たな仕事の供給を行っており、伝統刺繍が、村の住民らに安定した現金収入をもたらす手段となっている。地元自治体も刺繍の販売や市場を拡大するために貿易を促す施策を採用し、タンロイ刺繍の付加価値の増大に尽力している。若い人たちへの関連産業の職業訓練も展開され、刺繍産業を持続可能な発展産業にしようと地域ぐるみの動きが始まっている。

近代的な技術の発展で新たな素材が入手できるようになり、表現がさらに自由に豊かになったことで、ベトナムの刺繍は新たな高みへと達しているといえる。タンロイの手刺繍も、洗練されたデザインや高い品質を実現して、国内だけではなく、日本や韓国など海外でも知名度を上げつつある。