メコンデルタで進む干ばつや塩害対策 今季は被害抑制に期待

昨年から今年にかけてのメコンデルタ地方の乾季の干ばつと塩害被害は、記録的少雨だった2015~2016年の乾季よりも早く訪れ、規模的も上回ると予測されていたが、今のところ、農作物への影響や被害は予想を下回っているという。これまでの被害を教訓に、地方当局や農家らが、早くから対策をとってきたことが奏功しているようだ。

ベトナム国立水文気象予報センターによると、南部地方では今年3月末から4月上旬にかけて雨量が少なく、気温が32~34度と例年より高温になる日々が続いた。各地では、早くから灌漑用の真水の確保につとめ、水源への塩水の流入や浸潤を細かく調べながら、水やりを行うなど、被害を最小限に抑えるための措置をとってきた。

農業農村開発省や地方行政当局は、塩水の進入を防ぐための堤防の建設を加速し、貯水池で農業用水や地域の人々の生活用水となる真水を貯蔵。これらのプロジェクトは8万3000ヘクタールの農地などへの被害を直接的に防ぐ効果があったほか、広く30万ヘクタールの地域で干ばつや塩害の2次的影響を抑えることに成功した。ベンチェ省北部のロンスィエン地区などで、稼働が始まった灌漑システムも塩水の流入を効果的に抑えた。

農業生産手法にも工夫をこらし、満潮などによる塩水の流入のピーク時期をさけるために、2019~2020年の冬から春にかけての田植え時期を、例年より10日から20日ほど前倒しで行うよう指導したという。

ディエンザン省では、果樹園農家らが真水を保存する貯水池とそこに水をひくための水路を作ったり、水を少量ずつピンポイントで灌水し節水が可能になる点滴灌漑システムなどを導入したりするなどの措置を実施した。

ベトナムでも最重要の農業生産地域であるメコンデルタ地域は、ここ数年、水不足と塩害が地域の生産性を大きく損なってきたが、対策も同時に進められてきた。

ベトナム水源アカデミーのタン・ズック・タン副局長兼教授によると、メコンデルタの地方行政にとっての最重要課題が真水の水源確保だった。海に近い地域を中心に、真水や雨水を貯めておくための貯水湖や池、仮設ダムや運河の建設が急ピッチで進められた。

農業農村開発省は、計画投資省やその他の象徴部局と連携し、塩水の浸潤や流入などに対応するためのマスタープランを作成した。沿岸部で「コメ、果樹、漁業」とされてきた農業生産の優先順位を、「漁業、果樹、コメ」へとシフトしていくことや、長期的に水田を減らして果樹栽培や漁業・水産業の用地へと転換することなどが盛り込まれている。

さらに、自動水門によって、海水と淡水の流入を制御したり、地下水の使用を制限したりすることが可能になり、ベンチェ省では2024年までに海水と淡水を完全に制御し、調整できるシステムが完成するという。

カントー大学のボー・トン・スアン教授は、これらに加えて、近代的な灌漑用水路を備えたより大規模農場を形成する、稲作以外の農作物栽培を積極的に模索する―など、農業従事者らの考えや行動の転換を促す必要性も指摘。「農産物の流通を担う物流企業や農産物加工処理会社をも巻き込んで、地方行政当局や生産団体、企業などが協力して農産物のバリューチェーンを再構築し、新たな生産計画の導入などに取り組む必要性がある」と話す。

一方、チャン・フー・ヒエップ博士は、今年の記録的な塩害と水不足が人々の適応能力を向上させるだろうと期待している。「ベトナムは長期的な気象予報の技術をみがき、洪水対策として作られた従来の排水灌漑システムに頼るよりも、有効な真水の保存方法へと手法を切り替えていくべきだ」と主張。塩害や干ばつの深刻な影響を受ける地域の一部では、いまだに多くの農家が、栽培時期の変更や短期間で生育する品種の栽培などに頼った消極的な被害回避しかなされていないとした。

ヒエップ博士は、何百年もの間、自然に順応し、自然の法則を尊重していきた地域の人々に敬意を示しつつ、「今も昔も、自然に対して臨機応変に順応することがメコンデルタを救う最善の方法であるのは同じだ。我々に突き付けられた課題は、地域の持続可能な開発を実現するチャンスでもある」と強調した。