環境にやさしい米粉めん製造を 新技術導入に踏み切るハノイの伝統産業村

ブンと呼ばれる細い米粉めんの産地として知られる「フードー伝統産業村」は、ハノイ市郊外、ナム・トゥリエム地区にある。約1000軒の製麺所が集中するこの村では、1日約90トンの米粉めんが製造される。伝統的なベトナムの家庭の味を守る一方で、生産効率を上げ、排気の削減などで環境負荷を減らす新技術を導入する試みが行われている。

1990年代までは、フードーでの製めん所の約9割が手作業中心で米粉めんを作っていた。湯を沸かすのに使われていたのは、石炭のかまど。これが職人の健康を損ない、地域の環境破壊にもつながっていった。ベトナム科学技術アカデミー(VAST)が500軒以上の製めん所を対象に行った調査では、1軒の製めん所が1日に使う石炭量はだいたい19~22キロだった。これが500軒では、スラグと呼ばれる石炭の灰を1586トン生む結果となり、温室効果ガスとして世界的に規制されている二酸化炭素の排出量は6158トンにものぼった。フードー伝統産業村の代表者であるグエン・バン・ホア氏は、「かつては、時代遅れの技術と、程度の低い排水処理などが、村の水と大気などの環境を汚染していた」と振り返る。

そこで2000年代初頭に、科学技術アカデミー傘下のエネルギー科学研究所は、フードー伝統産業村に、3種類の改善策を提案した。

一つ目は、家族経営の小規模生産所ごとに、廃気用の煙突や断熱設備、熱リサイクルシステムなどを備えた改良型の石炭かまどを導入して共同利用するというものだった。30%の熱を再活用できるこのかまどは、従来型に比べ熱効率が2倍にアップ。余剰な熱は、村人たちの日常生活に再利用され、このシステムが今でも広く、村では採用されているという。

二つ目の提案は、3~5軒の製麺所でグループを作り、グループごとに、適正な温度や圧力、蒸気量を制御できるボイラーを設置するというものだ。この利用で生産性は、従来技術と比べ、2.5倍の1時間あたり200~400キロの生産にまで改善すると見込まれた。従来と同じ量を生産するのに、1日5時間の稼働で済むなど、作業時間が大幅に短縮でき、石炭利用も従来型かまどと比べて71%も削減できた。これによってフードー伝統産業村全体としては、石炭利用が1300トンもり、二酸化炭素の排出量も2000トン削減できると試算され、期待が高まったが、各製めん所間の調整が難航し、実際の活用例はまだ数例にとどまっている。

第三の提案は、コメ粉の製粉、生地の練り上げ、麺の製造、廃棄物処理、などと行程ごとに分業し支え合う製造ラインを、村全体で作り上げるというものだ。長い目で見れば、もっとも村にとってメリットがあると考えられるが、ホア氏は「このモデルの採用には多くの製造業者の賛成が必要で、さらには多額の投資も必要だ。実現には長い準備期間が必要だ」と話す。

エネルギー効率の課題に加え、製めんで使われる多量の排水の浄化策にも、村は積極的に取り組んでいる。酸化剤を利用した汚染物質を分解するときに消費する酸素の量を表す汚濁指標のCODを比べると、従来は1リットル当たり7800ミリグラムだったものが、さまざまな改善によって今では192ミリグラムにまで引き下げられた。

最近では、石炭の利用そのものを見直す動きもあり、村でもバイオガスの使用に踏み切る製めん業者も出てきている。製めんのさまざまな段階で積極的に科学技術を導入したことで、ベトナム人に身近な主食の一つである米粉めんの製造は、事業所あたりの生産量を従来の2~3倍にまで増やし、品質も大きく向上したという。

「これらの努力によって、製麺を専門とする伝統産業村はその村の職人らの健康状態も大きく改善された。今後も模索を続けたい」とホア氏は話している。