シルク製品で知られるハノイのハドン区にあるヴァンフック・シルク・ビレッジ。ここでは今、伝統文化の保存、継承に加えて新たな地場産品や雇用創出に向けた試みが行われている。ブン・アート組合では、障害者の職業訓練をしながらシルクの端切れを使ったアートを制作=写真、海外に輸出したり、旅行者向けの体験教室を開催したりしている。

作品は、使えなくなったシルクの端切れを染めてパッチワークのように配置して制作。キャンバスやバッグの上には、ベトナム北部伝統の木版画、ドン・ホー版画に見られる豚の図柄や、ネズミの嫁入り、ホアンキエム湖の通りの景観が色鮮やかに描かれている。これらの作品は、ハンディキャップのある人と社会をつなぐ架け橋になっているだけでなく、新たな土産物の創造にもつながっている。絵画やバッグのほか、カードや玩具など幅広い作品を揃えている。

ブン・アート組合は2017年、ハドン地区障害者協会のル・ビエット・クオン会長が設立。クオン会長自身、障害者として、就労の難しさを身をもって知っていた。そこで、一片の布切れを配置することで社会に参加できること、正しい位置さえ探し出せば、障害者も人生を輝かせるような美の創造に参加できるということを伝えようと、この取り組みを始めた。

組合では現在、35人の障害者が職業トレーニングを受けている。多くが熟練者で、訓練の後は雇用の機会が与えられるという。また、絵画制作やバッグづくりなど若い人や国内外の旅行者向けのワークショップも開催。伝統文化振興だけでなく環境保護にも寄与するこうした取り組みは、とりわけ海外からの参加者から賞賛されている。

2020年2月、組合ではシルク製の端切れで作った2000枚のTシャツを米国に輸出した。これを機に、米国をはじめカナダなど多くの大使館から注文が入っている。また、障害者の職業支援に加えて、観光商品の多様化にも貢献しようと、国内のファッションブランドとの協力も模索。新たな製品の創造とともに、障害者が自宅で就労できるモデルをさらに作り出していくチャレンジは今も続いている。