ベトナムで日本の高専式教育導入を本格化 企業ニーズに合った人材輩出へ

高度な知識を備えた技術系の人材を効率よく育て、労働生産性向上につなげようと、ベトナムは、実験や実習を重視した日本の5年制技術者教育機関「高等専門学校(高専)」をモデルにした新たな教育展開を模索している。昨年の来日時にグエン・スアン・フック首相が覚書に署名し、すでに3校で試験導入されている。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大による交流停滞を懸念し、オンライン会議などでのプロジェクト進展が図られることになった。

◇高度な教育訓練の実現へ
労働生産性は、国の競争力とビジネスの方向性を決定づける重要事項のひとつだが、2018年に行われた調査で、ベトナムの労働人材の質の評価は、アジア12カ国中11位という結果で、アンケートなどでも企業の約82%が、自社の労働者の質や技術について「満足していない」と評価していることが分かった。

だが、第4次産業革命の到来によって、高い技術をもつ人材の有無は、国の社会経済発展にとってさらに重要となっている。ベトナム政府も高度な技術を習得した人材の確保を最重要視している。そこで、労働者の技術力向上を目指し、ベトナム政府と商工省は、2018年、日本の独立行政法人、国立高等専門学校機構と提携した。昨夏には、G20 で来日したフック首相が、高専教育をベトナムで展開するための協力の覚書に署名した。

高専にならった教育システムは、すでにベトナム国内の3校で試験的に実施され、2020~2021年は250人の学生らが学んだ。彼らが卒業するころには、日本で働くための労働力輸出の条件や、ベトナムに進出した日系企業で働くための技術水準など、さまざまな条件に適合する人材に育つはずだ。

商工省のファム・ゴー・テュイ・ニン教育訓練人材開発局長によると、ベトナムの高等教育機関のうち、総合大学9校と25の単科大学で、電機やエレクトロニクス、エンジニアリング、繊維、化学、食品加工など、企業で必要となる技術系教育を提供しているという。これらの大学の卒業生は年間20万人を超える。企業との連携が成功している大学もあるが、教育や訓練が、企業の要求水準に達しないケースも見られる。特に製造分野では満足な成果が得られておらず、「日本と協力して高専モデルを導入することが、突破口になる」とニン局長は期待する。

◇ニーズに合った教育を
ベトナムで導入する高専モデルをより効率よいものとするためには、教育機関と企業の関係、特にベトナムに進出した日系企業との関係が、重要な役割を果たす。ベトナム日本商工会議所の矢萩斉副会頭は、「日本の企業は人材に対して厳しい要求基準をもっており、ベトナムの人材訓練や教育は多くの場合、まだその水準に達しているとは言えない。教育機関が、企業ニーズを見極めた専門教育や技術訓練を展開する必要がある」と日系企業側の要望を語る。

一方、商工省教育訓練人材開発局のグエン・テ・ヒエウ副局長は、ベトナムが、教育訓練の分野で、今後さらに日本の支援を切望していると語る。企業の採用計画や、職種によって必要な資格、技術などの情報を、ベトナムの教育機関に開示するよう求めており、「これが実現すれば、企業ニーズに沿った技術をもつ、適切な人材を育てることができる」ととらえている。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大のために、ベトナムでの高専モデル導入に向けた両国の交流は、大きく制限されてしまった。協力体制を維持し、実行に移していくために、両国は今後、積極的にオンライン会議などを実施していくことを確認した。