全国民の銀行口座保有へ 2030年までに、ベトナム政府

貧困層や辺境地に暮らす少数民族など、これまで銀行との接点がなかった人々が、金融サービスの恩恵を受けられるようにする「ファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)」が、ベトナムでも進められている。ベトナム政府は2030年には、成人国民全員の銀行口座保有を目指しており、貧困の削減などとともに、持続的な社会経済成長の実現につながると期待している。

国連によると金融包摂とは、金融機関が融資や貯蓄、さまざまな支払い、保険などのサービスを多様な個人や組織へ、サービスとして提供する機会の増加を指す。特にこれまで金融と縁のなかった低所得者層や財政上脆弱な労働者、少数民族などを対象とし、非正規の悪徳金融機関を撲滅しつつ、社会的資源を効果的に活用するための重要な柱になると見込まれている。人々の銀行預金を事業などへの資本投資に回すことで、雇用機会が創出でき、持続可能な経済成長や貧困撲滅を実現し、社会福祉を充実させ、人々の生活水準が向上すると考えられる。

ベトナムは、世界銀行が2020年までの実現を目指していた「ユニバーサル金融アクセスプログラム」で、優先的な対策が必要と指摘された25カ国に含まれている。また、東南アジア諸国連合が実現を目指す「ASEAN共同体ビジョン2025」の3本の柱の一つとしても、「あらゆる市民が金融機関と取引できる状況の実現」を掲げるなど、ベトナム社会において金融包摂は重要な課題となっている。

ベトナム国家銀行によると、ベトナム人の銀行口座保有率は徐々に増え、現在は国民の約70%にあたる8900万人が口座を開設しているという。

国内のさまざまな銀行は、より多くの市民が金融サービスを受けられるようにと、独自の金融包摂計画を実行にうつしてきた。その一例がベトナム農業農村開発銀行(アグリバンク)だ。同行の全融資の7割は、農業や農村の開発にかかわる融資が占めているといい、同行のグエン・ハイ・ロン副頭取は、「われわれは、これまで融資と縁の薄かった農業や農村というニッチな分野の顧客を開拓し、前年度に比べ融資が50%増加した」と話す。

ティエンフォン商業銀行(TP銀行)では、個人向けのローン展開に力を入れ、最高50億ドン(約2250万円)までなら、20分から遅くとも1時間後には融資するというサービスを展開している。

ベトナム国家銀行融資局のファム・ティエン・ズン局長は、金融機関が適切な価格で信頼できるサービスを提供し、より多くの個人や企業がそのサービスを受ける機会が増えることの重要性を説く。「金融包摂が本当にベトナム国民に浸透したといえるのは、スマートフォンを通じて、人々が気軽に金融サービスにアクセスできるようになった時だ」というのがズン局長の持論だ。

少額融資に特化した金融機関も誕生している。ティン・トゥオン・マイクロファイナンス(TYM)のグエン・ティー・トゥ・ヒエン頭取は、自社のサービスの多様化を進めていると説明。「他の信用・金融機関のほか、技術と金融サービスを融合させた革新的試みを展開し、革新的なIT導入、デジタル化能力の拡大などに取り組んでいる」と話す。

アグリバンクは、経済流通チャンネルや取引施設でのオペレーションを多様化し、改良を加えている。グエン・ハイ・ロン副頭取は、「個人や企業組織が金融や銀行のサービスに簡単にアクセスできるような状況を作りたい」と話している。

国家銀行のグエン・キム・アイン副総裁は、効果的な課題解決の実施や公私の資本投入によって、あらゆるベトナムの個人や企業が、金融機関を訪れて多様な製品やサービスを受けることができるようになりつつたると見ている。

今年の年頭にグエン・スアン・フック首相がこのほど承認した、「2025年に向けた2030年までの財政包摂戦略」によると、今年の年末までには、銀行口座を所有するベトナム人は、全国民の約80%にまで増える見込みだという。さらに2030年には、成人国民全員が銀行口座を保有する状況を実現させたい考えだ。これが実現すれば、成人の25~30%が何らかの金融機関に貯金をもつようになり、現金以外の支払いも毎年、前年度の20~30%増になるなど、電子決済も飛躍的に加速すると期待されている。