ベトナムは今年、「2025年までのデジタル変革プログラム及び2030年までの方針」を発令し、国家のデジタル化を進めている。「EU・ベトナム自由貿易協定(EVFTA)」の発効などが推進力になると期待されていたが、今年発生した新型コロナウイルスの感染拡大とその影響による外出自粛が、図らずもその飛躍的進歩に拍車をかけていると、専門家らは指摘する。

ベトナムの「デジタル変革プログラム」は、3本の柱のから成り立つ―デジタル政府の実現▽デジタル経済の発展▽社会のデジタル革新だ。健康、教育・人材育成、金融、農業、工業、エネルギー資源、環境保全、交通・運輸の8つの分野で優先的に導入される。

国は、これらの実現により、2025年には、国民総生産(GDP)を現在の20%増にまで成長させたい考えだ。その実現にあたって、市民生活に大きな影響を及ぼした新型コロナ感染抑制のためのロックダウン実施や、その後の社会的距離を保つ生活様式が、デジタル技術の利用を大幅に促進するという副次的な効果があったという。

コロナ以前も、ベトナムのデジタル経済の拡大は目覚ましく、東南アジアではインドネシアに次いで第2位の成長をみせていた。ベトナムの電子決済は、2019年には120億ドル規模にまでに達し、2015年以降の平均成長率は毎年38%増だ。市場は2025年までには430億ドルにまで成長すると見込まれている。

それでもベトナムのデジタル経済の成長余地はさらに大きいという。特に小売り分野では改革が遅れており、EVFTAの発効や新型コロナの影響が今後プラス効果として発揮されそうだ。

情報通信省・情報技術アプリケーション局のグエン・チョン・ズオン副局長は「EVFTAの施行とデジタル変革プログラムの始動は、双方が良い効果をもたらし、互いに成長拡大の機会を提供することになるだろう」とEVFTAの効果に期待を示す。

一方で、新型コロナの感染拡大期を経て、企業活動が徐々に正常に戻るにあたって、デジタル変革は、企業活動にとって必要不可欠な要素となった。直近の調査によると、ベトナム企業の約47%が、「新型コロナの影響でデジタル活用が増え、デジタル事業に資金を投じた」と回答している。

ベトナムのデジタル変革院のファム・アイン・チュアン副局長は、「期待は大きいが、ベトナムのデジタル変革は、堅固な循環システムの欠如、人材や技術が足りない。ユニークな発想と基礎技術も不足するため、まだ効果は限定的だ」と指摘する。

世界銀行ベトナム支部のジャック・モリセット主席エコノミストによると、「ベトナムはデジタル化の発展に出遅れている」という。「ベトナムではいまだにスマートホンで決済をすることが不可能であるか、たとえ可能であっても、非常に手間がかかる行動になってしまう。行政などの公式手続きも、依然として紙ベースで行われているのが現状だ」。

モリセット氏は、変革を加速させるためには、政府がこのような現状を鑑み、デジタル変革の重要性に対する認識を深めることが重要だと指摘している。