畜産拠点へと変貌するハノイ市 大規模経営、ハイテク技術など応用で

首都の都会的なイメージとはうらはらに、ハノイ市は近郊型農業の農業大国で、首都の食卓にのぼる数十万トンの肉や野菜、果物がハノイ市内で生産されている。同市農業農産開発局によると、同市の農業従事者は増加傾向にあり、なかでも注目なのが畜産業だという。海外向けの輸出も視野に入れ、市では生産性の向上や高品質種の育成など、競争力強化を図っている。

◇農業生産の価値向上
ベトナムの首都で、直轄都市であるハノイ市では、「県(Huyện)」と呼ばれる郊外の行政区を中心に農業が活発に行われている。同市全体の農業従事者は、2019年末には、2015年よりも500軒多い3150軒になるなど右肩上がりだ。現在では3800軒の農家と、魚介類の養殖場75カ所が存在し、これらを合わせた農業面積は5400ヘクタールに及ぶ。

ハノイ市が特に力を入れているのが畜産業だ。76の県や地区で大規模畜産業が経営されており、食肉加工や加工食品の製造、物流などのネットワークも整備されている。同市の畜産業は大規模な企業経営型が多いのが特徴だ。ハノイ市畜産局のグエン・スアン・ズオン局長によると、「ハノイ市の畜産は全ベトナムの畜産の約45%を占め、生産高では60%に相当する」という。

ハノイ市農業農産局でも、新型コロナウイルスの感染拡大にもかかわらず、畜産と養鶏業を対にしたさまざまな改革を進めており、今後も発展が期待されている。

大規模消費市場に近いメリットを生かし、安全性を強調し、すでに独自の食品サプライチェーン網を築いている生産者も少なくない。ハノイ市ザーラム県イェントゥン地区で10トン規模の鶏肉を生産するランヴィン・トレーディング社や、タインチ県の養豚場、サウス・ハノイ食品加工グループなどが一例だ。2016年に設立されたクオックオアイ県ドンイエン地区のイェン・ホア・フー畜産農協は、53人のスタッフが働き、5万羽の食肉用のニワトリのほか、さらに鶏卵用のニワトリ1万5000羽を飼育している。同農協は2019年には、ハノイ市が進めている「安全な畜産製品のサプライチェーン構築プロジェクト」のメンバーにも選ばれている。

ハノイ農業発展センターでは、畜産農家らに対して、生産手法の助言や、市場に呼応した食肉販売などで支援を行ってきた。「同時に、畜産や食品加工の基準を設定し、農家らに対して安全な、品質の高い製品の産出を促している」と同センターのハー・ティエン・ギー副所長は話す。農産物の原産地をたどれる独自のトレーサビリティシステムの確立も、センターの業績のひとつだ。

ハノイ市農業農村開発局のチュー・フー・ミー局長は、「農業経済を支援するために、当局としては、地方行政区と手を結び、技術移転モデルを確立させ、生産や保存、加工技術にかかわる人材育成や経営者への管理教育などを展開し、生産者側への市場の動向や情報の提供も行っている」と活動を紹介する。さらに、需要と供給を結び付ける努力を続けているほか、ベトナム版一村一品(OCOP)運動に選ばれた農家向けの資金援助や、ブランディングにおけるPR支援などにも力を入れる。

さらに、関連当局と連携して、土地利用にかかわる権利書の発効にも積極的に動いており、農業従事者らがこれをもとに銀行などから経営資金の資金調達ができるようになった。資金調達面では、効率的な生産計画を策定している農業従事者に対しては、ハノイ農業基金で最大4億~5億ドン(1万7000~2万1000米ドル)のローンが組めると、ミー局長は紹介する。

農業従事者らへのこのような支援策や農業経済システムの成果を、「多くの農家の生活水準を向上させ、郊外の労働賃金を大幅に引き上げた」と、タックタット県人民委員会副議長のグエン・キム・ロアン女史は歓迎する。

◇競争力強化が課題
ハノイ地区の畜産・動物健康局によると、成長するハノイ市部の畜産農家で欠けるのが市場分析力や生産の計画性や実現可能性の分析などだ。また、輸入品に比べると価格競争力などの面で劣るという。柔軟な経営戦略と競争力強化に向けて変革することが、ハノイ近郊の畜産業の生き残りと発展のカギになりそうだ。

そこで、同市の畜産業としては、小規模の家族経営農業を減らし、高品質の生産に的を絞るほか、科学技術の応用や原産地を明確にできるトレーサビリティ表示の導入を図り、オンライン売買などを促進していく考えだ。そのために、ハノイ市としては、「2020年から2030年にかけて、大型の農業生産施設へと農家を現代化して集約していく」(畜産局のグエン・スアン・ズオン局長)という。工業化された計画的な畜産業には、自然に配慮したオーガニック農業や伝統農法などの手法も取り入れていくという。

農業農村開発省がこのほど開催した「2020~2030の畜産発展戦略に関する会合」では、畜産業界が特に養豚、養鶏、食肉牛の飼育、乳牛の飼育に重点をおくことや、ベトナムの畜産業の可能性を存分に開花させ、輸出市場を開拓する方針などが確認された。これらの目標を実現するために、食肉加工場などでの動物衛生学的な基準の順守を徹底するほか、食品安全、環境保護などの基準も見直していく。

ハノイ市農業農村開発局の幹部らは、EU-ベトナム自由貿易協定(EVFTA)の発効が、ベトナムの畜産業全体にもハノイ市の畜産業にも、新たな発展の機会をもたらすと考えている。業界が特に期待するのは、新たな技術や先進的な生産手法に接することができるようになることだ。投資企業の誘致やハイテク技術を応用した集中加工設備などの導入にもつながると見ている。

業界側も、持続可能な発展を実現させるためには、生産体系の見直しや再構築が不可欠で、会合では「自分たちの製品やサービスにどのような付加価値を添加できるか検討すべきだ」などの課題が指摘された。生産を再編成させるという目標を達成するために、ハノイの畜産業界では今後、高品質品種の育成に焦点を当てるとともに、畜産や養殖において、新たな技術の応用にも取り組んでいく方針を固めた。