新型コロナウイルスの感染拡大は、人々の外出の規制や販売員による接客の縮小など、小売市場に多くの困難や課題を突き付けた。その一方で、食料品や日用品のまとめ買いのニーズの高まりや、ネット通販への移行など、消費者の動向変化が市場を変革する契機にもなったようだ。ベトナムの新しい小売市場の側面を紹介する。

ベトナムは、その購買人口の多さと人々の生活水準の高まりで増える需要のため、特に消費材や日用品などの販売先として、世界的に魅力ある市場となっている。

新型コロナウイルスの感染拡大は、そんなベトナムの人々の消費習慣を大きく変えた。今までになく、消費者の視線が健康やウェルネスに向けられるようになったほか、幅広い分野での小売り事業が通信販売などインターネット上での電子商取引へと移行したのだ。

それでも、いまだベトナムの小売業の主軸はオフラインの実店舗での販売や店舗からの配送だ。これらが今も、売り上げの大部分を占めているのがベトナムの特徴だといえる。

日本から進出した衣料品販売のユニクロがそのいい例だ。ハノイ市ドンダー区ファムゴックタックの巨大ショッピングモール、ビンコムセンターに開店したベトナム1号店で消費者を魅了すると、ユニクロはすぐさま、ビンコムセンター・メトロポリスとイオンモール・ロンビエンにも出店した。さらにホーチミン市の3店を合わせた計6店が開業したことで、ユニクロの売り上げは、通信販売だけだった時代と比べて売り上げが40%増になったという。コロナ禍にもかかわらず、顧客は通信販売では得られなかった実店舗での買い物体験という満足感を求めたのだった。

◇多様な販売チャンネルの開拓を
マルチチャンネルやオムニチャネルとは、実店舗とネット通販の境界を取り払い、複数の販売チャネルを提供することで売り上げを伸ばす小売り手法だ。新型コロナの感染拡大は、ベトナムの消費者行動が、この「オムニチャンネル販売」へと向かうのも、大きく加速させた。

すでに、小売業以外の分野の企業がこの好機に着目し、市場参入を果たしている。タクシー業から始まったグラブは、ベトナムで食料品のネット販売事業、「グラブマート(GrabMart)」を始動した。

また、ベトナムのIT最大手であるFPTの 傘下でIT技術の提供や電子機器販売を手掛ける「FPTデジタル・リテール社」は、シャオミ(Xiaomi)、オナー(Honor)、リアルミー(Realme)などネット通販に強いスマートフォンのブランドと提携して、オンライン販売事業を拡大。既存の大手小売企業、グエン・キムと協力して日用品などの販売を始めるほか、電子商取引大手ファド(Fado)と海外通販事業の展開で手を結ぶなど、マルチチャンネル方式の販売戦略を積極的に展開している。

ハノイスーパーマーケット協会のブー・ビン・フー前会長は、「新型コロナウイルスの感染拡大は、小売業界に困難をもたらしたが、同時に変革の好機も提供してくれた」と分析している。消費者が最も信頼を置くスーパーマーケットや大型商業施設などの市場を支配するには、商品の品質が第一条件だ。一方で、変化する消費者の要求に応えるには、品質追及に加え、「小売企業が消費のトレンドを敏感に察知し、マルチチャンネルでの買い物機会を提供することが成功にとって可欠になってきた」と話す。

消費者の買い物のための外出機会が減り、食品や日用品をまとめ買いする必要が出てきたことなどで、定期的に一定の商品を届ける定期便サービスなど、マルチチャンネル販売も多様化している。小売業はこの勢いに乗り遅れないよう、感染収束後に向けて販売チャンネルを工夫して開拓し、拡大を押し進め、普及させていく必要があると専門家らは分析している。