コロナの時代の特別なテト 混雑や帰省なし 大半が静かに自宅で

2021年のテト(旧正月)の三が日は終わったが、今年は、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、例年とは違うかたちで人々が静かに祝う、特別な祝日となった。好天に恵まれたにもかかわらず、寺院や花で飾った大通り、歩行者天国などがおおぜいの人々で混雑する風景は見られなかった。

自宅で過ごす、というのがコロナ禍のテトでの、人々の選択だった。

ニュースなどでは新型コロナが常に話題にされ、感染者数の最新情報が日々更新されていることなどから、伝統の祝いよりも、感染予防と管理の徹底を図る人が多い印象だ。

旧正月の大みそかを迎えるなか、ベトナムでは海外からの入国者・帰国者などを含め、約13万人が新型コロナのため医療隔離の対象となっている。また、何千人もの医療従事者や軍人、警察官などが、地域社会の安全維持と感染者対応などのため、テトとは縁遠い過ごし方をせざるを得なかった。

ハノイ市の主要な寺院や仏塔でも、過去のテトのように、宗教儀式への参加や参拝で人々が目白押しとなるような状況は見られなかった。訪れた人はいずれもマスクを着用、互いに距離をとって行動していたという。

ハノイ名物の老舗アイスクリーム店、チャンティエン・アイスクリームでは、大みそかの夕方、アイスクリームを購入する人々が距離を取りながら長い列を作った。ハノイ市民の高い感染防止意識を象徴する、美しい光景だった。

すべてのベトナム人にとって、最も重要な祝日であるテトの休暇は、伝統的に、家族親類がおおぜいで集まって祝うものだ。若い世代が高齢者たちから伝統を学び、祖先をしのび、尊敬の念を抱く重要な機会でもあった。

だが、複雑で予想しづらい新型コロナの感染がテト直前に休息に拡大したことが、今年は多くの人に、故郷への帰省を断念させた。大都市近郊の工業地帯に出稼ぎに来ている何万人もの労働者が、故郷に戻らずに、テトを過ごすことになった。近年増えていた、長期休暇を利用したテトの旅行も、変更を余儀なくされた。

地域や都市をまたぐ移動を減らすことで感染を抑制しようとする政府や地方当局の努力とともに、市民一人ひとりも、従来のテトの風習をあきらめ、移動を制限し、感染拡大予防策を実施するという、市民の責任を果たす必要があったのだ。

仕事などで慌ただしく、抑圧されることの多い日々のなかで、今年のテトは、人々がほっと息をつき穏やかに過ごすという、伝統的な旧正月の価値観が再認識されることになった。文化行事や新年を祝う花火などのエンターテインメント、迎春イベントなどが、感染予防のために軒並み延期や中止となったからだ。

コロナ禍はまた、人々が電話やメールなどを使って新年の祝賀を送り合い、デジタル技術やIT社会の精神を促進する機会ともなった。ZaloやViberなど、デジタルプラットフォームを活用した情報通信技術が、直接対面できない人と人との距離を減らすことに役立った。えとの像と花で新春を祝うホーチミン市の名物、グエンフエ大通りの花飾りも、人込みを作らないよう、オンラインで見られるよう工夫された=写真㊦。

旧年じゅう、ベトナムは2度にわたる新型コロナの波を制御したという誇れる成果をおさめた。世界に対して、ベトナムは、市民がみんな感染拡大予防のルールを守ることができ、自主管理が行き届いた規律ある国だと証明することができた。

今年の特別なテトは、表面的な楽しみや、利己的な考えを取り去り、「地域社会の安全に対して個々が責任を持つ」という、人々の新たな文化を創造した。一人一人が、新型コロナの感染拡大を抑制し、撃退しながら、あらゆる課題をともに克服するため、人々がさらに協力し、落ち着いて責任と連帯の精神を維持し続けることが期待されるテトとなった。