詩歌の伝統的総合芸術、カーチュー

ベトナムの伝統的儀式などで披露される総合芸術のカーチュー(Ca trù)は、2009年10月に、保存伝承の努力をすべきユネスコの無形文化遺産に選定された。伝統的な詩歌に楽器の演奏を加味したカーチューは、伝統音楽の宝庫であるベトナムでも、もっともユニークな民俗音楽のジャンルのひとつだという。

カーチューが、ベトナムの歴史書などに最初に登場するのは11世紀にまでさかのぼる。しかし、宮廷芸能の一つとして正式に承認されたのは13世紀の李王朝になってからのことだ。カーチューのチュー(trù)はベトナム語で「札」という意味だ。もとは歌い手や奏者らに、お礼の金額を記入した竹の札を渡し、演奏後、その金額の報酬を支払っていたということにちなむ。

伝統の形式で作られた複雑な詩歌の一種を、音楽にのせて歌い、表現する伝統芸能で、主にベトナム北部で行われている。特殊な息継ぎの手法とビブラートの手法によって、独特の装飾的な音を発する女性の歌い手と、木箱などをたたいてリズムをとる人、そして、3本弦の弦楽器とドラムが組み合わさって完成される。

       

一部のカーチューでは、これにダンスが加わることもあり、音楽や詩歌にとどまらない、ベトナム独特の総合芸能のひとつだ。さまざまな形式があり、神々を祀る祭事のカーチューのほか56種類の曲や演奏形態があり、歌のコンテストやエンターテインメントとしても行われている。

この歌と詩歌の芸術は、民族芸能のひとつとして、家族内で代々受け継がれてきた。ユネスコ文化遺産に認定後は、最近では趣味として習う人や学校単位で芸能の継承に取り組む店も。伝統芸能を継承するために民間のクラブなどで練習を続ける人々もいるという。