医療用デジタル画像通信システムを国産 商工省など 遠隔診断の発展に期待

商工省の支援を受けて、ベトナムのデジタル機器メーカー、iネクスト・テクノロジー社が、医療用画像処理機器とそれをオンライン診断などで活用するための通信システムを医一括開発した。画像を医療機関の間で共有できる「医療用デジタル画像通信システム(DICOM=ダイコム)」は、世界的に導入が進むが、その国産化は、ハイテク産業の発展を目指す商工省のプロジェクトの一つの大きな成果となった。

このシステムの活用で、遠隔地での診断や治療が容易になり、治療時間短縮や医療費の負担軽減など、医療機関と患者双方に利点があると期待される。ベトナムには1000カ所以上の病院や医療機関があるが、都市部に集中する傾向があり、通信を活用した遠隔診療や検査のニーズが高まっている。初期投資はかかるものの、一度現場に投入され、活用がうまくいけば、診療にかかるコストを低減させ、病院の管理経営を効率化できる。特に、レントゲン写真や超音波検査などのさまざまな画像のデジタル化は、患者の電子上の治療記録作成にも不可欠で、ニーズは高い。

今回、iネクスト・テクノロジー社を中心としたプロジェクトが開発したのは、超音波、レントゲン、CT(コンピューター断層撮影)、磁気共鳴画像(MRI)、血管造影(DSA)などのあらゆる画像を、オンライン診療で簡単に活用できるビデオ会議システムだ。このバーチャル会議室では、複数の医師や医療関係者らが画像を共有しながら、適切な治療方法を協議できる。システムは、データがネットワークを通じて安全に送受信や保管ができる「PACS(医療用画像管理システム)」と統合されているため、さまざまな撮影画像のデジタル化と保管も容易になった。

製品は、部品やパーツなどの85%が、ベトナム国内で調達できるという利点があり、そのために価格が輸入製品の約3分の1に抑えられた。同製品に使われるPACSは、国際基準であるISO 12052: 2006を満たした高い安全性を備え、長期間の画像保存も可能だ。データを他の場所に安全に移動することも簡単になるため、個人の電子上の医療記録を作成する基盤にも活用できる。

現状のベトナムにおける医療では、患者本人が医療の発達した都会へ来ざるを得ず、体調不良のなか長距離移動をしなければならない患者らにとっては大きな負担だ。さらに患者が集中する一部の公立病院では、経営が圧迫され、治療の質まで落ちるという課題に直面している。

このような課題の克服のためにも、医療の世界では、各医療施設の治療能力を拡大する一方で、患者の病歴作成や症例報告、検査結果や分析に利用する画像などの治療記録を電子化してきた。さらに一方進んだ遠隔診断などの実現には、画像のデジタル処理と簡単な移動が不可欠だったが、DICOMシステムを導入するには、高価な輸入機器に頼るしかなかった。今回のプロジェクト成功はこの点でも意義深く、システムの国産化が医療現場に大きな利点をもたらすと期待されている。

iネクスト・テクノロジー社ではすでに、首都圏のザーディン人民病院や、メディック医療センターのほか、ホーチミン市のトンニャット病院、ゲアン省のビンシティ総合病院などに自社システムを導入。医師や医療現場の技師を対象にした研修を実施しており、より幅広い実用化に向けて動き出している。