イワシなどの魚を塩でつけこんでつくる発酵調味料の魚醤(ニョクマム、ヌックマム)は、ベトナム料理に欠かせない存在だ。しかし、一部の商品にはアレルギー疾患の一因とされるヒスタミンが多く含まれ、輸出拡大のうえで課題となっていた。その弱点を克服しようと、商工省と国家農業大学は、ヒスタミンを削減する取り組みに着手。イオテクノロジーによって含有量を大幅に削減する実験にこのほど、成功した。

写真㊤=魚を発酵させてつく魚醤は、ベトナムの食卓に欠かせない

ベトナムはタイと並ぶ魚醤製造大国。タイのナンプラーとベトナムのニョクマムは、東南アジアを代表する味覚としてつとに知られている。「ベトナムでは魚醤の製造に、国内漁獲量の40~60%の魚が原料に使われている。まさに最も重要な水産加工品の一つだが、輸出量においてはタイの後塵を拝している。その理由は一部の製品で、ヒスタミンが基準を超えているからだ」。プロジェクトリーダーのチャン・チ・チュ・ハン博士は、研究の背景について説明する。博士によると、ヒスタミンは、鼻水やせき、発疹の原因と考えられており、「高品質な魚醤作りにおいて、ヒスタミン削減は重要な課題になっている」と言う。

実験では、ヒスタミンを分解する好塩菌(発育増殖に食塩を必要とする細菌)を使い、ヒスタミンの20~30%削減を達成。また、ナムディン省ハイハウ県の水産加工会社、ナム・ディン・シーフード加工とも協力し、1万3464㍑のアンチョビ(カタクチイワシ)・ソースを製造。成分を調べたところ、1㍑あたりのヒスタミン含有量は400㍉㌘以下と低い水準にとどまった。今後は、伝統的なベトナムの魚醤についても、5㌧程度の魚を使ったより大規模な実験をする意向だ。


実験ではアレルギーなどの原因になるヒスタミンの削減に成功した

商工省は、「研究で得られた手法は導入も容易で、ビジネス的にも潜在力が高い」と評価。タン博士も「魚醤は、家庭料理から外食まで、利用範囲が広いだけに、研究成果のもたらす可能性は大きい」と期待を寄せている。


ベトナムでは漁獲高の40~60%が魚醤の原料になる