医療プラットフォーム「テレヘルス」や国立感染症予防センター稼働

新型コロナウイルスの感染拡大への対処が続くなか、遠隔からの診断や治療などを実現する基盤となる医療プラットフォーム「テレヘルス(Telehealth)」がこのほど完成し、ベトナム全土に点在する小規模医療施設と中央との接続が実現した。その運用主体となる「新型コロナウイルス国立感染症予防センター」も稼働。このほどファム・ミン・チン首相らが参加して、プロジェクトの始動を記念する式典が行われた。

◇地方の小規模医療施設と中央を接続
プロジェクトは、ベトナム保健省と情報通信省の指示のもと、国防省傘下の国有の移動通信事業者、ベトナム軍隊工業通信グループ(ベトテル)や、ベトナム郵便通信グループ(VNPT)を含む、ベトナムの主要通信技術企業らが実現させた。47の市や省で、高い水準の医療技術が供給できない328地域医療施設に対して、リモートで医学的な検査や治療などを提供するためのプラットフォームが、わずか数日間で構築された。この結果、患者を大病院に搬送しなくても、新型コロナウイルスの困難な症例をリモートで専門医が治療することが可能になった。

今年6月に設立された「新型コロナウイルス国立感染症予防センター」は、このプラットフォームやさまざまな医療機関、企業などがもつコロナ感染症予防に関するデータベースや医学手知識の一元的な運用にあたる。

今月、全地域の医療機関とプラットフォームを結ぶ作業の完了とセンターの開設を記念する式典が開かれ、ファム・ミン・チン首相ら関係者らが出席した。この席で、グエン・マイン・フン情報通信相は、20カ月近く前にさかのぼる新型コロナ感染初期について、「当時は、新型コロナ陽性(F0)と判断されても、高度医療を備えた大規模医療機関で、しかも数十人程度しか治療ができなかった」と振り返った。現在の第4波では、各地の地域医療機関において、数千人の新型コロナ患者が治療を受けているが、これが可能になったのは、病院同士の知識の共有を可能にしたプラットフォームの実現が大きく寄与しているという。

テレヘルス・プラットフォームができたことで、地方の小規模医療施設にいる医師や看護師のチームも、専門的知識を充実したりアップデートさせたりすることが可能になり、自信をもって患者の治療にあたることができる。最も重要なのは、これが大きな時間短縮となる点だ。地方の小規模医療施設でも、すぐに必要な治療方法がわかり、取り掛かることができるため、中央の高度医療施設の負担を減らすことができ、結果的に死者や重症者の減少につながる。長期的には、このような医療知識の共有や、リモートでの検査・治療を提供するこのインフラを、新型コロナだけでなく、他のあらゆる病気の治療にも応用する計画だ。

「テレヘルスのように、オンラインで地方の医療施設と中央の高度医療機関をつなぐシステムの確立は、何十年にもわたり、医療分野の夢だった」と、フン情報通信相は、新型コロナのまん延という緊急事態下に迅速に行動し、システム確立を実現させた政府の判断を称えた。さらに、国家や社会に対する責任感から、利益を度外して、プロジェクトを慣行した国営企業らの英断も紹介し、「新型コロナ感染症によって、人々の無限の可能性と無尽の意欲に気づかされることとなった」と強調した。

◇国全体でプラットフォームを共有
「新型コロナウイルス国立感染症予防センター」自体もまた、緊急事態を背景にとてつもないスピードで実現した。始動の記念式典に出席したファム・ミン・チン首相は、新型コロナの予防技術を抱えるプラットフォームやデータ類が国家横断的な共有が不可欠であることを指摘。「このような情報共有は、中央の関連省庁が感染症の全体像をつかみ、感染予防と感染制御にむけた一貫した迅速な指示を出すために不可欠だ」とした。

センターの実質的な設立準備期間はわずか2カ月足らず。ベトナムの主要な情報通信やデジタル関連企業18社が協力してインフラを整備し、1兆5000億台のハードウェア機器や人材を提供し、感染症対策プラットフォームを構築した。

これらのプラットフォームはすでに、医療の問診や申請、患者の追跡や隔離、PCRなどの検査の実施、ワクチン接種の管理、人同士の密集予防や距離の維持などの監視、遠隔での医者の診察などのさまざまな面で感染予防や感染制御に威力を発揮。ワクチン接種を優先させるべき高齢者のデータや、支援が必要となる可能性のあるホームレスの人々のリストまで作られているという。

「このようにセンターは毎日、直接2000万人の人々に貢献しているが、各省や地域がこのプラットフォームを活用できれば、1億人に貢献することになる」とフン情報通信相は胸を張った。さらに、より多くの人々がデジタル技術を活用すれば単価が下がり、より多くのデータが収集できればさらに多くの価値が創造されるため、「全国規模のプラットフォーム上で、国家規模での情報共有が実現してはじめて、センターの真価が発揮される」と説明。「国家全体で共有されたデジタルプラットフォームが、ベトナムを統一された集合体へと変貌させ、感染症の抑制や災害時対応などで、国が俊敏に、柔軟に、一貫性をもって対応するため大きな助力になるだろう」との期待を示した。

式典では医療側から保健省なども参加し、近い将来、すべての医療機関で、ワクチン接種者に対する「ワクチンパスポート」を発行すると明かした。また、すべてのベトナム在住者に対してオンラインの医療検査や治療を提供していくことを長期的な目標として掲げたほか、ビッグデータの応用や人工知能(AI)をはじめとする多様な高度技術も医療管理や検査、治療などに応用していく考えを示した。