植物のハスから絹作り しなやかで極上の風合い

絹というと、カイコの糸から作るのが一般的だが、アジアの一部では植物のハスの繊維を使ったロータス(ハスの英語名)・シルクが作られている。ハノイ市ミードゥク県の絹職人、ファン・チ・チュアンさんはベトナムで初めてロータス・シルクの製品化に成功。新たな特産品として期待されている。

今年、70歳になるチュアンさんは絹製品一筋40年のベテラン。2年前、ロータス・シルクを研究する科学技術省の科学者に会ったことがきっかけで、自分でも試作し始めた。

しかし、完成にいたるまでの道のりは、決して「絹のようになめらか」というわけではなかった。「ハスの織り糸は髪の毛よりもずっと細く、気の遠くなるような繊細さと高い技術が要求される。何度もだめにしてしまった」とふり返る。

1本の茎から作ることができる織り糸はわずか1㍍。熟練の技術者になると、1日200本編むことができるが、1枚のスカーフを作るのに必要なのは4800本。1カ月がかりの作業になる。「大変な手間と根気、時間を必要とする仕事。それでも、独特の繊細さと美しさがあり、手間をかける価値は十分ある」(チュアンさん)。

長年にわたって蓄積した熟練の技と持前の情熱で、数々の難題を乗り越え、ようやく完成したのが2019年。ロータス・シルクを使ったチュアンさんのスカーフやシャツ、ドレスがお披露目されると、業界の注目の的に。G20サミットの際には、当時首相だったグエン・スアン・フック国家主席が、お土産としてチュアンさんのロータス・シルクのスカーフを持参したことでも話題になった。

耐久性に優れていることから、かばんやブックカバー、額や装飾品などにも加工できるが、最も人気が高い商品はスカーフで1枚347㌦(約3万8000円)。日本や米国、フランスでも販売されている。

ロータス・シルクは雇用創出や地域の所得増という点でも期待されている。現在、チュアンさんは、環境にもやさしい持続可能なファッションをめざして、カイコの絹とロータス・シルクを混紡した手ごろな価格の製品の試作を続けている。チュアンさんは、「ロータス・シルクが国内外のニッチな市場を切り開いくれれば」と期待している。