新型コロナ感染抑制に科学技術分野を総動員 民間への技術移転も

ベトナムの科学技術分野では、新型コロナウイルスの感染拡大の予防と制御に向けた研究開発が進められた。短時間でウイルスが検出できるキットの実用化など、さまざまな研究が実り、医療の進歩につながっただけではなく、科学技術の応用は、企業や社会が新型コロナの拡大で直面した困難を乗り越えるための助けにもなっている。

◇ロボット、呼吸器からワクチンの開発へ
新型コロナの感染が発覚した直後から、ベトナム政府とブー・ズック・ダム副首相の指導のもと、ベトナムの科学技術分野の研究者らは、世界各国の同業者らと一丸となり、情報交換を展開し、最新の機器類や技術、感染抑制に役立つとされる製品の効果実験などを展開してきた。同時に、感染症そのものの疫学研究も加速させ、短時間で新型コロナウイルスの感染の有無を確認できる検査キットなどの開発にも成功している。また、治療に役立つモノクローナル抗体や、遠隔治療に使えるロボット、人工呼吸器や新型コロナワクチンの国内製造など、すでにいくつもの成果がもたらされている。

ベトナム国立衛生疫学研究所(NIHE)は、早い段階で新型コロナウイルスの培養や分離に成功した。これは、検査薬や抗体、ワクチンなどの研究と開発製造に取り組む研究者と製薬メーカーなどに試験材料の提供を可能にし、ウイルス研究の前進に大きく貢献した。

また、Viet A テクノロジー社がベトナム軍医科大学と共同で開発したベトナム製の新型コロナウイルス検査キットは、ベトナム保健省に認可されたのに加え、イギリスの保健省や欧州の基準にも適合し、ヨーロッパの自由販売証明書(CFS)を取得した。また、世界保健機構(WHO)の緊急使用リスト(EUL)にも追加されるなど、信頼性の高さを物語っている。

さらに、ナノジェン(Nanogen)製薬バイオテクノロジー社が製造するベトナム初の国産新型コロナワクチン、「ナノコバックス(Nanocovax)」は今年6月11日に第3相治験に入った。8月16日には、チャン・バン・トゥアン保健相が、治験範囲の拡大を承認するなど、プロジェクトは国を挙げて支援されている。遺伝子(DNA)組み替え技術を応用した「ナノコバックス」は、昨年12月18日に第1相の治験が始められ、今年2月26日に第2相治験に移行。計画によると、第3相の治験はワクチンの効率性を確かめるのがねらいで、世界各地の研究拠点で1万3000人の治験参加者を得て行われている。

◇企業活動も側面支援
科学技術省などは今後、ワクチン製造に関連する研究と技術移転を最優先としつつ、新型コロナの感染抑制と制御のために、科学技術の民間応用を展開していく方針だ。特に、新型コロナから企業活動が回復するための支援が、今後の大きな目的のひとつとなる。

その第一歩として、科学技術省は、教育訓練省、保健省、ベトナム郵便公社のほか、デジタル技術大手のドータイン・テクノロジー(DTT)社などと連携し、新型コロナ感染対策をはじめとする健康や保健衛生分野での教育展開での技術応用や、企業が相互に情報交換できる技術プラットフォームを確立させた。また、感染率の高い地域を地図上で表示させる「Vマップ」のような、感染症管理に役立つさまざまな情報発信アプリの民間開発も支援。外国人観光客の誘致を前に、観光客らの行動をたどることのできるアプリや、健康情報の申告などに使えるソフトなどの開発といった成果も得られている。

このように、科学技術分野は、品質管理や衛生基準などの情報やさまざまな知的技術を、企業の実用化に向けて提供。それが、企業が新型コロナウイルスの感染拡大から生じた困難を乗り越えるための武器となるという、よい循環が生まれている。感染抑制に役立っている呼吸機器や医療用マスクなどに関する国内外の最新情報が、早い段階で無料公開されたことなども、その一例だ。操業間もないベンチャー企業の生産や輸出を伸ばすための課題解決にも取り組んでおり、さまざまな成果をあげている。

経済回復を視野に活動するベトナム財務省も科学技術分野との連携に前向きな姿勢を示す。外国企業の認可にかかわる料金の50%低減を検討しているほか、新型コロナの拡大で打撃を受けた企業の知的財産登録申請料も低減する考えだ。