メコンデルタで生産や経済活動再開 コロナ感染拡大第4波の終息で

ベトナムの新型コロナウイルス感染拡大第4波は国の経済だけでなく、特に感染の多かった南部のメコンデルタ地方に大きな打撃を与えた。国内総生産(GDP)の成長率は落ち込み、企業の倒産件数と失業率が上昇する状況から、傷ついた経済を早期に立て直そうと、生産の再開と経済活動の本格的な再始動が急がれている。

◇迅速な適応
政府の適格な指示や対応によって、新型コロナの感染拡大はホーチミン市やハノイ市などの主要都市のほか、感染が特に多かったビンズオン省などベトナム南部メコンデルタ地方の各省でも、収束しつつある。それを受けて、多くの省や企業が社会隔離の緩和に乗り出し、通常どおりの生産活動を再開させる動きが見られる。

だが、企業が依然として厳しい状況に直面していることには変わりはない。ベトナム商工会議所(VCCI)の行った調査によると、今年1~9月の企業新設は8万5000社会であるのに対し、倒産を含め事業運営を停止した企業は9万社にものぼった。事業を継続している企業にとっても状況は深刻だ。特に感染者数が多かった南部の19の省や直轄都市では、企業の98%が「甚大な損失を被った」と回答しており、そのほとんどが「状況が改善しなければ、ぜいぜい3カ月~半年後までしか事業を継続できない」と考えているという。

カントー省では、工業生産をはじめ、ほとんどの企業で事業運営が停止された。10月初旬にカントー市内で生産を続けられていた企業は全体のわずか17%で、残りは操業が停止されていた。やっと生産が再開されたことに企業も興奮しているが、一方では労働者らの新型コロナワクチン接種率が依然として低いことに懸念を示している。これらの企業は、自社の労働者らが安全に働き続けられるよう、現在、ワクチン接種を最優先課題として取り組んでいる。

ドンタップ省では一時期、生産を継続しているのは、新型コロナの感染抑制策として、限られた労働者だけが生産現場に寝泊まりし、生産現場で仕事、食事、宿泊をするという「3つの現場主義」を採用した100社ほどの企業に限られ、通常時の30~40%の生産規模に縮小されていた。厳格な社会隔離措置が緩和され、南部の企業の生産が再開されたことによって、9月の同省の鉱工業生産指数は前月比6.21%増加し、前年同月の70.69%にまで回復した。

ベトナム・フルブライト大学の経済学者であるグエン・スアン・タイン氏は、今年の第4四半期にベトナムのGDP成長率は前期比3.5%増加し、通年では2%増の成長になると予想している。「今、各省や市、地方などの関心は、年末に向けていかに生産増加や新ビジネスにつながるチャンスをつかむか、経済活動と投資をどのように再開させ、持続させていくか、さらには年末に向けていかに南部地方の利点をPRしていくかに寄せられている」とタイン氏は話す。

◇経済の再開
新型コロナを制御できた省や市などの自治体の多くが、手探りで経済の再開を始めている。だが、経済の再開と回復には、全国的な視野に立った多次元的アプローチを用いた包括的な戦略が必要だ。

メコンデルタの経済に詳しいチャン・フー・ヒエップ博士は、「経済を安全に再開させるためには、それぞれの自治体が、それぞれの地域の実情に合ったシナリオを策定する必要がある」と指摘する。保健省などが疫病予防や制御に関するさまざまな基準を見直すなどして、各地域が新時代の日常生活を取り戻す手助けすることも必要だ。

そのうえでヒエップ博士は「生産を本格再開させるための最優先項目は、労働者らのワクチン接種だ」と強調する。「これに加えて、効果的な経済再開メカニズムや人々の生活、労働者や企業などが困難を乗り越え、年末に向けて生産を取り戻し、安定させるための支援策や政策の導入を並行して実現させねばならない」。

ベトナム商工会議所のボー・タン・タイン副会頭は「感染収束後のいわゆる『ニュー・ノーマル』の状態になっても、感染が再拡大するリスクは存在する。そのため、政府や地方自治体の支援に加えて、企業主導の環境適応策や適切な企業運営などの経営努力が、企業存続の重要な要素となっていくだろう」と指摘している。