ベトナム-ドイツの生態系保全共同活動が成果 絶滅危惧種を守り、社会に恩恵も

生物が多様なベトナムの自然や生態系を保護しようと、ベトナムがドイツとともに展開してきた環境保全プロジェクトがこのほど、4年の期間を終了した。自然保護が大きく前進したのに加え、地元が自然からの経済的恩恵を受けられる仕組みが構築できた―など、先ごろ、その成果が披露された。

共同プロジェクト「ベトナムの森林生物多様性と生態系の保全とその持続可能な活用に関するプログラム」の成果発表は、オンライン形式の会議で行われた。プロジェクトは、ハロン湾に浮かぶカットバ島(クアンニン省)のカッティエン国立公園▽南中部高原地方ラムドン省のビズップ・ヌイバ国立公▽北部タイグエン省のタイン・サ・フォン・ホアン自然保護区▽ソンラ省のチャムタウ保護林―の4カ所が対象。生態系の維持や絶滅危惧種の保護を目指し、環境と生体の評価や研究、計画的な植林の実施などが行われた。

ベトナム森林局(VNFOREST)のチャン・クアン・バオ副事務局長は、同プロジェクトが2018年の森林法の策定に大きく役立っただけでなく、特殊林や保護林に関する法体制の整備にもつながったと説明。森林の運営や計画的な管理、天然資源の持続可能な利用などに、地元の人々が深くかかわるよう促したところ、天然資源の管理や利益分配が適正化されるようになり、プロジェクトが目指していた「地域が、生態系の恩恵を受け、環境保護に還元する」という循環ができたという。

国土面積の41%以上を占めるベトナムの森林は、動植物たちの重要な生息地となっており、生物多様性の観点からみて、世界でももっとも重要で注目されている生態系のひとつだ。森林はまた、周囲に暮らす約2500万人の生活にも寄与し、国民経済にとって不可欠な存在でもある。だが、一方で、ベトナムの森林の劣化は続いており、生物の多様性も驚くべき速度で縮小している。実にベトナムの生物の約13%にあたる種が、絶滅の危機に瀕しているという。

プロジェクトにかかわった在ハノイ・ドイツ大使館開発協力部のヘレネ・パウスト副部長は、「地球的な気候変動による打撃がもっとも大きい国のひとつであるベトナムにおいて、森林の生態系の保全は、自然と人の共存を助ける解決策になる」と語る。

◇将来的な飛躍
プログラムはひとまず終結したが、ドイツ側は今後も、ベトナムの自然と、そこに暮らす人々の利益のために、天然資源の管理と生物多様性の保全などの分野での協力を続けたい考えだ。「我々の保護開発の協力の次のフェーズは、森林と川や湖などの淡水、森と海洋など、複数の要素が混合するような複雑な生態系が舞台となるだろう。このアイデアを共同で発展させていくのが楽しみだ」と、パウスト副部長は展望を語った。

このプロジェクトのディレクターを兼務するベトナム森林局のドアン・ホアイ・ナム保護地域管理局長は、保護地域のパトロールと管理のための効果的な手法である「空間監視報告ツール(SMART)」が標準化されたことが、プロジェクト成功のカギで、大きな成果だったと強調した。ツールには標準化されたデータモデルや国のガイドライン、これにかかわる人々の訓練カリキュラムなどが盛り込まれている。現在、ベトナムの33カ所の保護区域などで実用に向けた準備が進められており、ベトナムの森林や生態系の保護活動は今後大きく飛躍する見込みだ。

「プロジェクトの支援を受けて、保護地域の管理委員会と政府機関、NGO(非政府組織)などの相互協力も強化できた」とナム保護地域管理局長は言う。

昨年10月に開催された国連の生物多様性会議(CBD COP15)で、各国の首脳らが世界的な環境問題を論じ、保護地域の拡大や、環境のより効果的な管理などが必要であると結論付けた。11月に英国のグラスゴーで開かれた国連の「気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)」でも、気候変動など、地球規模の環境問題とその対策が話し合われている。ベトナムとドイツはともに、COP26で採択された「森林と土地利用に関するグラスゴー首脳宣言」に署名しており、内容に盛り込まれた「2030年までに森林破壊を止める」という目標の達成に向けてともに努力を続けている。