パイナップルの葉の線維でバッグなど製造 ゲアン省のベンチャー企業

パイナップルの産地として知られるベトナム中部のゲアン省で、これまで農業廃棄物として厄介者扱いされていたパイナップルの葉の部分が、繊維原材料として活用され始めている。地元のベンチャー企業が始めた試みが、環境にやさしい素材を求めていた海外メーカーの原材料に採用されるなど、世界的にも注目を集めている。

◇自然にやさしい〝緑〟のベンチャー
ベトナム中部ゲアン省のディエンチャウ地区に住むグエン・フー・ハインさんは、2021年の9月を忘れることはないだろう。彼と仲間たちが、パイナップルの葉の繊維から作った製品が世間に紹介され、世界各国から歓迎され、脚光を浴びた瞬間だからだ。

ハインさんの故郷、ゲアン省はパイナップル産地として知られる。ベトナム人が大好きな果物だが、栽培を始めてから果実が完熟して製品として出荷できるまで、実に18カ月間もの月日がかかる。若くして父親を亡くしたハインさんは沿岸部に転居し、生活のために船乗りになったが、たった一種類の果物の栽培に1年半もかける故郷の農業のことが、ずっと頭から離れなかったという。ついに6年前、パイナップルの商品価値を向上させ、不要な葉の廃棄による自然破壊を緩和したいと、高所得の船長の仕事を捨てた。葉から繊維を分離して活用しようと考え、パイナップル栽培を始めるために、故郷の村に戻ることを決意した。

32歳のハインさんは、7人の賛同者とともに農業生産組合、「ズア・ハイン・フック(Dứa hạnh phúc)」を設立した。社名は、ベトナム語で「幸せのパイナップル」の意味。パイナップル栽培はほぼ初心者であったため、ハインさんは働くと同時に学ばねばならなかったが、生産は順調で50人以上もの季節労働者の雇用を生んだ。

生のパイナップルの出荷に加え、最初の製品はパイナップル茶とパイナップルのジュースで、組合名前を短縮した「Duhapu」のブランド名で売り出した。生のパイナップルの売り値は1個わずか3000~4000ドン。なのに、果実をフリーズドライしたところ、1個1万2000ドンにまで跳ね上がった。

さらにハインさんが注目したのが、パイナップルの葉だ。環境汚染を低減するため、栽培農家らは葉を廃棄したり燃やしたりする必要があり、多大なコストと時間が必要だった。そこで葉の部分から繊維質のみを分離して農業廃棄物の分量を減らし、繊維を活用することで地元の人々の新たな収入源を創出しようと考えた。インターネットで調べると、世界各地でパイナップルの葉から繊維を抽出し、布地や衣服などの製品を製造している例を見つかった。それらの情報を頼りに、実際に故郷でもやってみようと決意したのだ。

ハインさんは、鋭い刃物を使い、繊維を残しつつ葉を小さく切断できるシステムを考案。この機械を使うと1日3トンのパイナップルの葉を処理することができる。抽出された繊維はその後、パイナップル酢に浸し、乾燥させ、撚り合わせ、紡いで糸が作られる。

繊維質を切り出す設備には5000万ドンが必要だが、100キロのパイナップルの葉から5キロの繊維を取り出すことができ、キロ当たり80万ドンで売ることができる。通常、パイナップル農家が18カ月かけて育成したパイナップルの生果実の販売収入が3億5000万ドンだった。だが、「この方法で葉をうまく有効利用できれば、6000~7000万ドンの収入の上乗せが見込める」とハインさんは言う。

ズア・ハイン・フック農業生産組合では、ゲアン省だけでなくニンビン省、タインホア省の農家からパイナップルの果実だけでなく、葉や繊維を買い入れするシステムを構築した。希望する農家には、収穫後に糸を作ることができるよう、繊維分割機を提供。抽出された繊維は、ハインさんがパートナーらと共同設立し、技術責任者を務めるエコソイ社が購入する。機械を導入しない農家は、葉をそのままエコソイに販売することも可能だ。

◇世界にパイナップル繊維を発信
パイナップルの葉の繊維を原材料に、製品化までを行うエコソイ社が、製品を世界に向けて初めて発信したのが、2021年9月、スイスのルツェルンで開かれた国際展示会「GWAND持続可能フェスティバル」でのことだった。

手織りされたパイナップル繊維で作られた高級ハンドバッグや、さまざまな工芸品、ハンモック。世界のバイヤーたちがこれらの製品に引き付けられた=写真㊦。だが、何よりも人々が注目したのが、パイナップル繊維が伝える、「農産物産地の人々が環境に優しい原材料を開発し、それで製品を作ることが地域の人々の生活向上を助け、社会に前向きな影響を与える」という背後の〝物語〟だった。この機会によって、エコソイ社には新たなビジネスチャンスが開け、英国の企業などとの提携が実現した。今後、エコソイ社は、世界有数のメーカーに、パイナップル繊維を納入するサプライヤーになる予定だ。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で輸出が停滞していた時期も、ハインさんは、コロナ終息後にヨーロッパに販売するための製品の研究開発に余念がなかった。

ハインさんは、「パイナップル繊維を使った製品は他の原材料を使ったものと比べて高価格になってしまうため、今のままでは国内販売には向いていない」と分析する。例えば、パイナップル繊維を編んで作るハンモックは400万~700万ドン、織って布にした素材を使ったハンドバッグは120万~350万ドンもする。パイナップルの葉を圧縮した素材のバッグだと数1000万ドンに価格が跳ね上がってしまうのがネックだ。だが、「いずれは、国内でも販売できる方法を考えたい」とハインさんは前向きだ。

ハインさんと仲間たちは事業を通じて、持続が可能で、自然環境に優しく安全で化学薬品などを使わないファッションの確立を手助けしている。事業が環境の保護と自然の汚染を最小限にすると同時に、故郷の農家の収入の改善にも役立てていることにひとまずは満足している。だが、「将来、ベトナムを象徴するような製品をもっと開発し、海外に紹介していきたい」とハインさんの夢は膨らむ。