進まぬプラスチックリサイクル、年間の経済損失30億ドルとの試算も=IFC、世銀

国際金融公社(IFC)と世界銀行ベトナム事務所によるレポートによると、ベトナムは、日常的に排出するプラスチックごみを適切にリサイクルしていないために、年間30億ドル(約3800億円)近くを無駄にしていると推定される。

◇低水準の理由

ベトナムでは、毎年約390万トンのPET(ポリエチレンテレフタレート)、LDPE(低密度ポリエチレン)、HDPE(高密度ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)といったプラスチックが使用されているが、このうちリサイクルのために回収されるのは128万トン(33%)に過ぎない。つまり、ベトナムでは、毎年最大262万トンのプラスチックごみが廃棄されており、プラスチックの価値の75%、年間22億~29億ドル(約2800億~3700億円)に相当する損失をもたらしている。IFCと世銀のレポート「Plastics Circularity Opportunities and Barriers」では、もしベトナムで使用されているすべてのプラスチックが回収・リサイクルされた場合、リサイクル製品や再生材がもたらす価値は、年間34億ドル(約4300億円)に上ると試算される。

世銀ベトナム担当局長のキャロリン・ターク氏は、「急速な都市化と中間層の拡大により、プラスチック製品と包装材の消費が大幅に増加し、ベトナムを含む地域の新興市場が、プラスチック汚染のホットスポットとなっている。廃棄物を管理する設備への投資が、廃棄物の排出に追い付いていないためであり、官民が協力してこの複雑な経済、環境、社会問題に対処するとともに、プラスチック材料の価値を最大限に生かす政策を策定し、投資を拡大する必要がある」と指摘する。

ベトナムT-techテクノロジー社の会長であるグエン・ディン・チョン博士は、リサイクルが低水準である理由として、廃棄物の非効率な分類、時代遅れの技術による小規模な運用、リサイクル製品の品質の低さ―を挙げた。

さらに、チョン氏は、「金融政策による障壁、国内の廃棄物のリサイクル単価の低さ、そしてベトナムは依然プラスチックスクラップ材の輸入に大きく依存しており、その供給が途絶えていることもこの事業への企業参入を阻んでいる」と続けた。


リサイクルのための廃棄物の回収・分類モデルを確立する必要がある

◇サーキュラーエコノミーの促進

IFCの専門家は、この「ガラクタごみ」を無駄にしないために、ベトナムは廃棄物を再利用するだけでなく、経済活動につなげて循環を生み出していく必要があるという。プラスチックのリサイクルは、プラスチック汚染を解決するとともに、温室効果ガスの排出抑制や原材料の使用量削減、将来の固形廃棄物管理・処理にかかるコストの削減にも役立つ。

IFCと世銀は、価値の低いプラスチック製品については、市場への持ち込み禁止や制限、消費者、メーカー、輸入業者への手数料や税の賦課など、効果的な政策を提言している。特に、リサイクル含有物を奨励するべきで、そのための優遇政策やリサイクル含有物の規範・基準も設けていく。政府は、グリーン公共調達(GPP)の実施や、リサイクルプラスチック製品のマーク表示の採用によって、主導的な役割を果たすことができる。

加えて、ベトナムでは、プラスチックごみの回収・分類の効率を高め、プラスチック市場データの透明性を向上させるとともに、リサイクルプロジェクトへの財政支援も求められている。また、プラスチックごみの回収率・リサイクル率を高めるだけでなく、メカニカルリサイクルやケミカルリサイクルを推進し、プラスチックごみの廃棄を減らすための具体的な要件を設定する必要があると、レポートの著者は指摘する。

IFCと世銀のレポートでは、プラスチックリサイクルの経済的利益を高めることは、プラスチック汚染の解決を目指す民間部門からの投資を呼び込み、大きな打撃を受けている観光業、海運業、漁業といった主要産業を支援する手助けとなるとしている。