アジア安全保障会議(シャングリラ対話)におけるズン首相の基調講演

約30カ国の国防・安全保障担当の閣僚らが意見交換する「アジア安全保障会議」(シャングリラ対話)がシンガポールで開かれた(会期は5月31日~6月2日)。

開会に際して、ベトナムのグエン・タン・ズン首相が「アジア・太平洋地域の平和・協力及び繁栄のための戦略的な信頼関係の構築」と題して基調講演した。
News Liner(ニュースライナー)は、この重要な基調講演の全文を入手し日本語による詳報を掲載いたします。詳報作成にご尽力頂いた皆様に心から感謝いたします。

アジア太平洋地域の平和・協力及び繁栄のため、戦略的な信頼関係を構築

はじめに、シンガポールのリー・シェンロン首相、John Chipman博士、第12回シャングリラ対話実行委員会に対して、今回の会議にお招き頂き、また基調講演を行わせて頂きお礼申し上げます。初めての会合から12年間が経過したシャングリラ対話は、この地域で最も実質かつ有意義な安全保障に関する対話の場であり、安全保障の協力のために最も重要なフォーラムの一つになっています。
政府の幹部、国防のリーダー、学者の皆様がこの場にいらっしゃることは、変動する国際社会において、アジア・太平洋地域の安定と平和を維持することへの感心と協力を表していると信じています。

言葉の違いや、さまざまな表現の形があると思いますが、私たちはこの点において一致していると思います。信頼関係がなかったら成功する事はありません、困難な事があれば信頼関係がより大切です。ベトナムのことわざに「信頼が無くなったら、すべて無くなる」という言葉があります。信頼は友好関係、協力関係すべての源です。また、地域衝突を引き起こす野心的な考えを防ぐとても有効な薬であり、防止するための妙薬だと思います。信頼関係というものは具体的な行動によって構築するべきであり、終始一貫している必要があります。また、誠実な態度と共通の基準に沿って養育されるべきだと思います。

20世紀、東南アジアをはじめアジア・太平洋地域は、激戦地でした。何十年間に渡る深い亀裂が生じました。この地域の人々はみんな平和を渇望しています。平和・発展さらに繁栄のためには、信頼関係を構築し強化することが必須です。言い換えれば、アジア・太平洋地域の平和協力と繁栄のために、私たちは一緒になって戦略的な信頼関係を構築することが必要です。これは、本会議会合で、皆さんと一緒にお話したいテーマです。

まず、私たちのベトナムは、この地域の協力・発展に素晴らしい将来性があるということを確信しております。しかし、現在は競争と干渉があります。特に大国からの競争の促進と干渉が進み、この地域においては、積極的な面以外の隠れたリスクが存在します。そのため、私たちはリスクが起こらないように主導的に防止しなければなりません。

アジア・太平洋地域は最も発展的な経済地域です。世界の3大経済国が存在します。多層、多分野の交流・連結も活発です。この地域の開発における主要な方向性を示しています。この傾向は、この地域の人々にとってはとても良いチャンスだと思います。
しかし、ここ数年の地域を全体的に見直すと、私たちの平和と安定に対する危機や困難を認識しなくてはなりません。
協力と発展の過程では、競争と干渉は普通のことだと思います。しかしその競争、干渉がもし、自分の利益のためだけに基づき、不平等、国際法違反、不透明であれば戦略的な信頼関係構築の妨げであり、地域内の亀裂、懐疑、相互牽制が生じ、この地域の平和、協力と発展に悪い影響を与えかねません。

現在、朝鮮半島情勢は予想できない状況です。東シナ海から東海(南シナ海)にかけて領土主権の争いも複雑です。こうしたことは航海の安全、航海の自由への影響などこの地域の平和、安全保障に影響を与え、国際社会の懸念も高まります。またこの地域では、一方的な軍事力の増加、無理な要請、国際法の違反行動、強権的な政治の行使もあります。

世界における海洋運送の比重はますます増加し、その意味が大きくなっていることに留意しなくてはならないでしょう。多くの予測によると、全世界の貿易量の4分の3は海洋の輸送です。また、その中で3分の2は東海(南シナ海)の輸送ルートです。無責任な行動が一つでもあれば、衝突が起こり、莫大な品物の流れが分断されます。地域だけでなくて、全世界の経済にとってもリスクです。

また、宗教・部族をめぐる対立や、利己的な民族主義、テロ、サイバーテロなどの問題なども残っています。グローバルな問題ではありますが、気候の変動、温暖化による海面の上昇、疫病、水の利権をめぐる上流と下流地域による争いも激しくなっています。

この様な状況において、私たちは衝突の危機を排除できません。もし、不安定な状況や武力衝突を招けば、「全体としては勝者も敗者もありません。すべて敗者になります」。そのために各国は、アジア・太平洋地域の平和、協力、繁栄のために、戦略的な信頼関係を構築する必要がある。私たちは、戦略的信頼関係の構築は、まず誠実と誠意から始まると理解しています。

次に、戦略的な信頼関係を構築するためには、国際法を遵守することが必要です。国家の責任を果たせなければなりません。特に大国は、まず、大国としての責任を果たせなければなりません。さらに、国際安全保障の協力に関する決まりを効果的に実施しなければならないでしょう。

世界の歴史においては、強権の野望、衝突、戦争によって多くの民族は犠牲を強いられました。現在の文明世界では、国連憲章をはじめ、国際法、共通の原則、共通な行動は、全人類の共通の価値です。それらは尊重されるべきであり、厳守するべきです。こうしたことも戦略的な信頼関係構築の前提条件です。

共通の平和と安全保障に対して、国際社会の一員としてどの国もその責任があります。大国でも小国でも、平等関係があり、互いに尊重し、互いに戦略的な信頼関係が必要です。大国の場合は、国際社会に対して大きな役割があり、より多くの貢献をすべきです。戦略的な信頼関係の構築とその強化のためには、もっと大きな責任があります。その一方、正しい発言や有意義なアイデアは、それが大国によるものか小国であるかは関係ありません。ASEANにおける協力、平等対話、オープンであるという原則は、ASEANが提起したフォーラム、このシャングリラ対話会合でも、そのアイデアの基礎になっています。

私は昨年、インドネシア大統領が基調演説で述べられた地域の安定した体制を作るために大国と小国が連結できるというアイデアに賛成します。また昨年9月、北京でリー・シェンロン首相の発言にも賛成します。その内容は、アメリカと中国の信頼および責任に基づく協力はこの地域の発展のために積極的に貢献できるというものでした。私たちが理解しているように、アジア・太平洋地域は地域内の国々または地域外の国々が協力し、利益を互いに分け合うことができます。アジア・太平洋地域は十分に広い。この地域の将来は、地域内の各国、また全世界の交流の中で、その役割が生み出される。大国とアジア諸国の役割と責任は欠かせません。

私は、この地域の平和、安定と発展のためには、仮に、地域外の国々の戦略的な干渉があっても反対しない、と考えます。私たちは大国の役割をさらに期待しております。特にアメリカと中国です。自国の将来、地域と世界の将来に最も大きな役割と責任を持つ2カ国です。その期待は戦略的な信頼関係によって実現化し、またその戦略的な信頼関係は、これらの国々の建設的で具体的な行動を通じて構築することが必要です。

われわれは著しく台頭している中国と太平洋地域の強国であるアメリカの役割を特に重視しています。私たちは、中国とアメリカの戦略、行動が国際法に則り、国際法を遵守し、各国の独立、主権を尊重し、自国に利益をもたらすことだけではなく、この地域の平和、安定、協力と繁栄に積極的に貢献できることを心から期待し支持します。

現在この地域ではいろいろな協力体制が存在します。例えば、ARF(ASEAN地域フォーラム)、EAS(東アジア首脳会議)、ADMM+(拡大ASEAN国防相会議)、シャングリラ対話などです。その体制は多層的であり、多国間、多国の安全保障体制への交流を許可し、問題解決のための対策も見つける機会に繋がります。しかしまだ足りないものがあります。何が足りないのでしょうか。それは戦略的な信頼関係でしょう。重要なことは、変動的な地域の中で、信頼関係を構築することです。具体的な分野、各レベル、多様の交流を実施する必要があります。もし、私たちに戦略的な信頼関係があれば、現在の協力体制の実施もより効果的になります。私たちは現行の交流や協力を速やかに許可し、拡大することができます。どんなに難しく微妙な問題でも解決できるでしょう。

さらに、アジア・太平洋地域の平和、安定、協力、繁栄について多くの国際フォーラムで、中心的な役割を果たしているASEANの団結について言及します。

冷戦時代、東南アジアは分裂されていました。当時は現在の統一的な協力体制は想像できませんでした。ベトナムのASEAN加盟は1995年ですが、ASEANは新しい発展段階を迎えていました。ASEANは東南アジア諸国の共通の家と言えます。ASEANの成功は、東南アジア諸国間に長年にわたり信頼関係の構築、対話文化、協力、共通責任の建設を堅持してきたと言えます。

ASEANはコンセンサスと信頼に基づいて形成された発展モデルを誇ります。人口が約2億5千万人のインドネシアと約50万人のブルネイ、つまり大国も小国も平等な関係であることが基盤になっています。ASEAN地域以外の国々がASEANを信頼するための基礎でもあります。

ASEANには利益を共有するという考えとして、東アジア首脳会議(EAS)の時にはロシアとアメリカを招待しました。また2010年の拡大ASEAN国防相会議(ADMM+)の成功などは、地域の新しい体制の構築をより強固にしたと言えるでしょう。ASEANがその役割を果たすことで、この地域の安全保障がより多層に発展できるという信頼が高まっています。

ミャンマーの例ですが、信頼関係を構築し、互いに合理的な利益の尊重に基づいて対話を堅持したことで、新しいミャンマーが誕生しました。ミャンマーの発展は、ミャンマーの利益だけではありません。
もしASEANが統一しなかったら、自分たちの地位や利点を失うことになるでしょう。ASEAN内の不統一は、ASEANの地位向上にマイナスの影響を与えます。私たちが必要とするのは、加盟する国々が自分の利益しか考えないASEANではなく、団結して強固となり他の国々と効果的に協力するASEANです。我々の責任は信頼を向上させる事です。

ベトナムとASEAN諸国は、世界各国、特に大国に対してASEANの中心的役割、ASEANのコンセンサス、団結、ASEANの統一という原則の支持を望みます。

私たちはASEAN、パートナーと一緒に、この地域の安全保障、安定、安全、また航海自由の体制を構築できます。その体制があれば、現在の世界の平和、協力の強化と発展の基本原則にも協調できます。

また、水の安全問題の解決のためにも戦略的な信頼関係があれば、私たちはその協力をより強化できますし、自国の利益と他国の利益の調和も図れます。その時、私たちは新しい成功、地域の平和、協力、発展にも積極的に貢献できると考えます。

皆様

ベトナムの歴史、数千年の中で、私たちは戦争による莫大な被害を経験し苦しみました。ベトナムはいつも地域と世界の平和への願望を持っています。地域および世界の平和、友好関係、発展に貢献したいと考えます。しかし、本格的な平和、安定に実現するためには、大国小国を問わず、各国の独立主権を尊重するべきです。利益、文化の違いがあれば、オープンな対話を通じて、建設の心を通じて、相互理解、相互尊重を通じて、対話するべきです。

歴史のことは忘れませんが、その幕を閉じて、未来を迎えるべきです。ベトナムは、他国との戦略的な信頼関係の構築、他国の協力と発展を望んでいます。しかし、このことは互いに独立の尊重、主権の尊重、平等と互恵関係の原則に基づかなければならないのです。

 

「アジア安全保障会議」(シャングリラ対話)

英国のシンクタンク「国際戦略問題研究所(IISS)」が主催する国際会議。2005年に第1回会合が開かれた。今回で12回目。開催地はシンガポール。例年、アジア・太平洋地域、欧州から国家の要人や閣僚、有識者らが出席し、安全保障問題などについて話し合う。