メコンデルタの観光促進に各地の特色PR 文化や自然など“独自性”打ち出す

ベトナムの南部の各省や都市は、地域ごとに文化や風習が異なる、特色豊かな観光地だ。だが「メコンデルタ」とひとくくりにされ、その多彩な魅力が十分に伝えきれないのが課題。そこで、各省・都市へ観光客を誘致しようとカントー市で今月1日から大規模な旅行見本市「ベトナム国際トラベルマート2019」が開催され、関係者らが地域ごとの独自性をアピールした。

見本市には、300社を超える旅行会社、ホテルなどの宿泊業、飲食関連企業や航空会社などが参加。観光促進のイベントや商談が繰り広げられたほか、ステージでの芸術パフォーマンスや飲食コーナーでの名物料理の提供などで、メコンデルタ各地の観光がPRされた。

ひと口にメコンデルタと言うが、この地域には多くの文化遺産と遺跡があるほか、ベトナムの他地域には見られない、独特の自然生態系と多様な文化コミュニティが地域ごとに存在し、観光の発展促進につながる可能性を秘めている。

観光客らのもつイメージは水上マーケットや農村と水田の風景、寺院の仏塔、海と島々の絶景に偏っているが、それ以外にも魅力的な観光拠点が数多く存在する。それなのに、典型的なデルタ地方の旅を選択する観光客が多いのは、多くの観光ツアーで行先が重複していること、地域間を移動してのツアー旅行に魅力的な商品が少ない、といったことなどが理由のようだ。

メコンデルタ観光協会によると、2017年に一帯をおとずれた観光客は3300万人だった。このうち280万人が外国人観光客で、彼らがもたらした観光関連収入は17兆ドンを超えた。しかし、メコンデルタ滞在期間中の観光客の支出は、1人1日あたり約22ドルで、これはベトナムの他地方での1日あたりの支出よりも75%も少なかった。その影響もあり、ベトナムの他地域では観光業の成長が2桁台の伸びを見せているのに対し、メコンデルタでは前年比9%増の成長率にとどまり、メコンデルタ全域で観光関連企業が危惧を抱いている。

観光インフラの整備の遅れと、道路や鉄道、水路、さらには空路も含めた交通インフラの接続の悪さが、メコンデルタの観光業の成長を阻む主要な障壁であるというのが、この地域の省や市などの自治体当局の一致した見解だ。また、メコン川流域のベトナム南部が直面する気候変動の負の影響も、観光発展を妨げる要因のひとつになっている。

そこで、メコンデルタ各省・市は、観光発展のために新しい視点に立って斬新な解決策を模索する必要があると同時に、観光発展のための資源や経済を最大化し、持続可能な発展を現実のものとする必要がある。観光客誘致のために行われる関係者やメディア対象の視察旅行などのアンケート調査からも、メコンデルタ地域の観光サービスの質を評価する声があった一方で、「観光客の域内での滞在期間を延ばすためには、目新しい観光スポットの開拓が不可欠」との結論が示された。トラベルマートに参加したティエンフォン観光社のフン・スアン・カイン社長も、「それぞれの自治体が独自性をもっと打ち出す必要がある」と断言した。

直轄都市カントー市とバクリュー、カマウ、ソクチャン、アンザン、ハウザン、キエンザンの6省からなるメコンデルタ西部地域では、「メコンデルタの観光開発のためのマスタープラン」のもと、諸島めぐりのツアーや自然環境にやさしい「エコツーリズム」、体験型の「文化観光」など、ユニークな観光商品を開発する取り組みを始めている。

西部地域の観光資源をみると、バクリュウ省には、農民らに歌い継がれてきた民間音楽「ドンカータイトゥ」や、少数民族クメール族の踊りなどがある。一方、カントー市は従来からのメコンデルタ観光の拠点都市から脱却し、大規模集客が望める企業等の会議や研修旅行、国際会議、展示会のいわゆる「MICE観光」と、歴史的名所や伝統技術に触れる職業村の製造現場ツアーなどの開拓に力を入れる。

アンザン省は、文化的な観光や、精神性を重視した「スピリチュアル観光」に焦点を当てる。文化的な観光資産の例としては、勇壮な水牛レースが展開される伝統的な「競牛祭り」、スピリチュアル観光の側面では、社寺が多く集まる聖地「サム山(Núi Sam)への巡礼登山、鳥類保護区にもなっているチャー・スー(Trà Sư)のマングローブ林などの観光資源もある。

各地方当局は、年齢層や所得層のほか、海外からの観光客と国内旅行客など、さまざまな市場セグメントごとに観光ニーズを考慮し、観光商品を開発し、マーケティング戦略を練る必要がある。海外観光客向けには、エコや文化の側面を重視したツアーの提供、伝統工芸村などの紹介や体験、地元の生活文化体験や祭りなどへの参加などが好まれる。これに対して、国内旅行客は精神性や宗教的な側面を追及した旅を求めているという。

「2020年までの観光発展マスタープラン」によると、メコンデルタ地方には2020年までに、年間3400万人の観光客が訪れるようになり、このうち350万人が外国人観光客になると目されている。それを2030年には、650万人の外国人を含む5200万にまで増やす計画だ。これによって、地域一帯の観光収入は2020年には約25兆ドンに達し、2030年には111兆ドンを超える見込みだ。

アンザン省文化スポーツ観光局のファム・テー・チュー副局長は、「今後、メコンデルタ地方はもっと国際観光展や見本市などでの観光PR活動を積極的に行い、業界の関係者らを対象とした視察旅行などを企画し、新たな観光商品の紹介を展開すべきだ」と語っている。