「観光のバリアフリー化実現を」 障がい者ら自身が調査を実施、要望などを発信

勾配が急すぎて登れない車いす用のスロープ、ドアが狭くて入れない身障者用トイレ…。ベトナムでも、多くの観光地で、障がいを持つ人々のためのバリアフリー措置が取られるようになったものの、ノウハウの不足などから、残念ながら役立つものはまだ少数にとどまる。そんな現状を変えようと、障がい者自身が、調査に乗り出し、改善の声を上げ始めている。

施行された身体障がい者対策法に基づいて、体に障がいがあっても、公共施設などへのアクセスや公共交通網など移動手段の利用、情報伝達、文化やスポーツ、観光などへの参加と利用を保障しようと、ベトナムでもさまざまな社会対策が行われるようになった。しかし、身体障がい者の支援団体「ハノイの身体障がい者の明るい未来をつくる会」がこのほど、調査を行ったところ、現実には、障がい者には利用できない、上記のようなさまざまな“不十分なバリアフリー対策”が明るみに出たという。

調査は、障がい者が利用しやすい観光施設などの情報を提供する会のウェブサイト(http://dulichtiepcan.com/vi-vn/)で紹介することを目的に、多くの障がい者が参加して行われた。その結果、本当に役立つ配慮がなされていたのは、ハノイ市やホーチミン市など大都市の大規模ホテルと一部の宿泊施設だけだった。その他は、バリアフリー対策としてエレベーターが設置されたはしたものの、扉が開いている時間が20秒以上に設定できないため、時間内に乗り降りが難しいなど、実際には障がい者が使いにくい事例が多かった。

「身体障がい者にも快適な観光の促進」と名付けて、ハノイ市身体障がい者協会と、活動を支援しているアビリス・ベトナム財団(Abilis VietNam)が展開するプロジェクトでは、このような利用上の不備を発信。チームリーダーのチン・チー・ツー・ツゥイさんが、「障がいをもつ観光客を受け入れるため、それぞれの地域ごとに、さまざまな課題がある」と難しさを説明した。例えば、湾に浮かぶ奇岩を船で見て回るハロン湾やメコン川流域観光の拠点であるカントー市などでは、肝心の水上交通システムで車いす対応などのインフラが未整備で、障害をもつ人々の観光が実現できないといったことが報告された。

一方で、近年、障がい者自身や支援団体などが声を上げることによって、観光地に前向きな変化がみられるようになった例もある。例えば、ダナン市のビエンドン公園は、海までの道路を整備し、ベトナムで唯一、車いすでもアクセスできるビーチとなった。また、クアンナム市のベトナムの「英雄の母の記念碑」周辺や、古都フエのフォン川沿いなどでは、滑り止めを施した遊歩道が整備されたほか、ハノイ市の公共バスシステムでも一部、車いすでの乗車が可能になるなど、少しずつ改善が行われている。

ホーチミン市障害者協会のズオン・ティー・バン会長らは、「観光は障がいをもつ人々にとっても、自然で実用的なニーズで、彼らは旅行を含めたさまざまな社会活動に、もっと参加したいと願っている。観光を本当にすべての人々に提供するためには、今後は観光地や民間施設だけでなく、地域当局なども参加し、地域ぐるみでより具体的な行動を取る必要がある」と提案する。