幻想的なパテン族の火踊り 北部山岳地帯に伝わる文化継承

ベトナム北東部の、ハザン省とトゥエンクアン省にまたがる山岳地帯に暮らす「パテン族」は、ベトナムでももっとも小規模な少数民族の一つだ。独特の文化風習を長く守ってきた彼らは収穫期や雨乞いなど、さまざまなユニークな祭りを、一年を通じておこなっているが、なかでも、今の時期に行われる勇壮な「火踊りの儀式」が有名だ。


【写真説明】儀式を前に、火の周囲に集まるパテン族の女性たち

燃えさかる火の上で暴れ、踊るこの儀式は、人里離れたこの地に暮らし、危険や逆境、自然の驚異にたくましく立ち向かう人々の大胆さや勇敢さを示すとされる。

パテン族は、火と炎を、彼らに幸運をもたらす最強の神としてあがめている。火踊りの祭は、収穫期の旧暦の10月から、新年をまたいで旧暦の正月の終わりまでの時期に繰り広げられる。

祭りの夜には、各家庭が薪の束を持ち寄り、めんどり、豚肉、コメなどを供え物として持参する。

村の広場で夕刻から開催される火踊りに参加するのは、力が強く、動きの機敏な若い男性たちだ。

祭りは、祈祷師の開会の宣言で始まる。祈祷師は、人々に儀式への参加を呼び掛けるとともに、祈りを通じて神々たちも儀式に招待する。そして、火の神が同意すると、参加者らは神がかった興奮状態に陥り、次々と燃えさかる火に素足で飛び込み、熱い炭の上で踊るのだ。

踊り手たちは順番に、複数回、火の中に飛び込んでは踊り、自分の強さと勇敢さをアピールする。村人たちは拍手を送り、声を上げてはやし立て、周囲では村の女性たちが美しい民族衣装に身を包み、歌い踊る幻想的な光景が広がる。

時が過ぎ、炎が小さくなり、火が消えると、祈祷師は祭りに加わった神々に感謝の祈りを捧げる。その間に、参加者らも次第に興奮状態が収まり、いつもの様子を取り戻していくのだ。不思議な事に、炎の中で乱舞していたはずなのに、青年らの手足はススで真っ黒に汚れてはいるものの、火傷にはなっていないのだ。

現在は5000人ほどとされ、ベトナムの少数民族の中でも集団規模が小さいパテン族だが、伝統と文化を受け継ぐために、このような祭事の継承に力を入れているのだという。