観光への打撃深刻 新型コロナの感染拡大

新型コロナウイルスの感染拡大が、アジアの観光産業に深刻な影響を与えている。とりわけ、中国とその周辺国への打撃は大きく、旅行者の減少は数か月から半年にわたるとの見方も。1兆㌦(約108兆円)の市場規模と言われるアジアのドル箱産業は、危機的な状況を呈している。

写真㊤=ふだんは、中国人でにぎわうタイのパタヤの水上マーケットも閑散としている

2019年、1273億ドル(約14兆円)の観光収入があったとされる中国。同国の旅行会社やホテルでは、経済的な打撃が数カ月から1年以上の長期にわたるとみている。予約キャンセルの動きは、中国だけでなく国境を接する東名アジアに広がり、その件数は日々刻刻と増加している。

ニューヨークの旅行代理店、エンバーク・ビヨンドによると2~3月の旅行は75%がキャンセルとなった。新婚旅行もすべてキャンセルか、モルジブや南アフリカ、オーストラリアに変更となった。ヒルトンチェーンは、感染拡大の打撃は半年から1年間続き、2500~5000万㌦(約27~55億円)の損失を予想。ホテルチェーンの多くは、可能な限り宿泊の延期や宿泊先の変更に対応している。

感染拡大防止のために、海外からの渡航者を制限しているマレーシアとシンガポール、タイも深刻な打撃を受けている。特に、中国からの観光客が全体の3割を占めるタイの影響は深刻だ。2019年、観光客が同国に落とした額は180億㌦(約1兆9000億円)でGDPの12%に相当する。当局によると、中国からの観光客の落ち込みは、約30億(約3300億円)に上るとみられる。タイ旅行協会のまとめによると2月1~10日までの中国からの観光客は前年同期比で99%減、観光客全体でみても71%減と厳しい状況だ。

香港、韓国、日本も同様の過酷な現実に直面している。ベトナムの損失規模は59~77億㌦(約6400~8400億円)に上ると予想されている。インドネシアでは2万件の宿泊予約がキャンセルされた。全体的な影響はまだ取りまとめ中という。市場調査会社、IHSマーキットのラジブ・ビスワス・チーフエコノミストは、「ウイルスの感染拡大の影響はすでにこの2カ月で明確に出ており、今後さらに悪化する」と分析している。2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行したときは、WHO(世界保健機関)が終息宣言を出すまでに半年以上を要した。

航空業界アナリストによると、SARSのときは、世界の航空業界に100億㌦(約1兆1000億円)の損失が発生した。当時は、今より旅客も少なかった。今回の新型コロナウイルスの感染拡大ではすでに2万5000のフライトがキャンセルになっている。(VEN)