QRコードが観光を救う? ワクチンパスポートの採用、ベトナムも検討

ベトナムの関係当局は新型コロナウイルス感染で大打撃を受けた観光産業の回復を支援するため、ワクチン接種や健康状態などを証明するいわゆる「ワクチンパスポート」の活用検討を始めた。世界ではすでに採用の動きが広がっているが、ベトナム国内の関係者らからも「業界の救世主になり得る」と早期実施を求める声が高まっているという。

ベトナム経済にとって、観光業は重要な発展の推進力だ。業界の売上高は、新型コロナ前の2019年、ベトナム国内総生産(GDP)の約9.2%に達し、この年は過去最高の1800万人(前年比16.2%増)が海外からベトナムに入国した。

ベトナムの国家観光諮問委員会(TAB)は、グエン・スアン・フック首相(当時)に対し、「ベトナムが観光客誘致で世界の他の国々から遅れをとらないためにも、タイミングよく、観光客を再び誘引するための技術的、政治的な解決策を図るべきだ」と提言した。ベトナムと競うタイなど他の観光国が、ビジネス往来や観光客の入国承認などの緩和で旅行業界を支援しようと、安心安全な方法での国境開放の模索を始めているとした。

しかし、国家観光諮問委員会のホアン・ニャン・チン事務局長は、一方で、「海外からの観光客受け入れは、ベトナムの、新型コロナの感染拡大兆を感知する能力や、感染拡大への対応能力を見極めて、実施されなければならない」と慎重な姿勢も示した。

先月行われた、観光地などを抱える地域との懇談会で、当時のグエン・スアン・フック首相は、ベトナムがワクチンパスポートを承認して海外からの人の流入を再開させることを見据えて、適切な感染制御方法を検討するよう、保健省などに要請した。また関連省庁に対し、ワクチンパスポートを採用した国際線の段階的な再開を、具体的に検討するよう求めた。

ワクチンパスポートのうち、個人のワクチン接種記録などを証明するデジタル版は、スマートフォンやデジタル端末などに表示できるもので、その個人データは簡単なQRコードのかたちで表示される。

その実施に際して、ベトナムの情報通信業界は、渡航者のワクチン接種証明を獲得するために必要な技術インフラは、4月中には整備が完了する当局に伝えた。現在、海外からベトナムに一時的に来越する人々やベトナムへの移住者などの入国者に対しては、14日間の隔離が義務付けられているが、現状ではワクチン接種済みであっても、対象とされてしまう。

◇実証実験に向け前進
海外ではすでに、いくつかの国や地域がデジタル版のワクチン接種証明を試験的に実施している。例えば、世界の航空運輸関連企業がつくる国際航空運送協会(IATA)は、「デジタルトラベルパス」 と名付けた電子版の健康証明書を開発した。新型コロナのワクチン接種履歴やPCR検査などの結果を、航空会社や渡航先の関係当局に証明し、渡航スケジュールを管理するためなどに使用できる。試験的な導入実験を経て、このほど、シンガポールなどが正式採用し、日本でも近く、日本航空などの航空会社が実証実験を始める予定だ。

一方で、IT大手IBMは、利用者の毎日の検温結果や、感染者との接触警告、感染を調べる検査の結果、ワクチン接種の証明など、様々な個人の健康情報を集約できるアプリ「デジタルヘルスパス」を開発した。IBMでは、その活用によって、人々が仕事や学校に戻れるだけでなく、スポーツ観戦など公共の場所への訪問や海外渡航などを再開させるきっかけになると期待する。

国連世界観光機関(UNWTO)も、観光を安心安全なものとして再スタートさせ、業界への信頼を取り戻す施策に、これらのワクチン接種証明の活用を盛り込むことを検討している。このような証明書があることが、海外渡航を含む国際的な観光の安心できるかたちでの再出発にとって、特に重要な意味を持つとしている。

このような世界的な流れから、ベトナム国内でもハノイの旅行大手、フラミンゴ・レッドツアー社やホテルチェーン、ニューワールトラベル社なども、ワクチンパスポート制のベトナム国内での早期採用を政府に訴えた。政府としてもワクチン接種者の入国受け入れ緩和策を承認する方向で動いており、保健省や文化・スポーツ・観光省などが、国家観光諮問委員会の提案を検討し、実証実験の開始に向けて前進している。