ベトナムの観光業、国内旅行客に熱視点 コロナ禍脱却めざす

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響で、ベトナムはまだ、海外からの観光客受け入れを行っていない。そのなかで、苦境に立つ観光業界は、これまで海外顧客向けに開発してきた旅行商品や施設を活用し、国内の消費者に向けた観光提案を展開することで、業界の持続可能な成長を目指す方向へと、事業展開をシフトさせつつある。

◇革命的な方向転換
ベトナム観光開発研究所によると、ベトナムでは市場が急拡大して国内観光客の総数が5700万人を突破した2015年が、国内観光の大きな転換期となった。ベトナムの国内観光客の数は、2011年から2019年にかけて、3000万人から8500万人にまで増えた。国内観光客による観光業界全体の収益も、2015年には158兆ドンだったものが、2019年には334兆ドンに倍増した。

これらの数字は、ベトナムの国内観光客の開発が、まだまだ可能性を秘めていることを示している。グエン・バン・フン文化スポーツ観光相は、「急増する国際観光客向けの観光開発が優先され、後回しにされてきた国内観光だが、新型コロナの影響で、業界全体が国内の観光客集客に焦点を戻すことを余儀なくされた」と話す。

これまで、ベトナムの観光業は国内総生産(GDP)の約10%占めるなど貢献は小さくなかった。だが、昨年は収益が激減。今年第1四半期の国内観光客の数は180万人に迫ったが、これでもまだ2019年同期の半分に過ぎない。

新型コロナの抑制がおおむね成功してきたことで、ベトナム人の観光への意欲が高まっていると分析する。実際、今年4月30日の南ベトナム解放記念日や5月1日のメーデーといった祝日には、観光客増加の兆しが見られ、ベトナムの観光業界に希望の光を投げかけた。

◇よりよい商品を
文化スポーツ観光省は、国内の観光開発を促すため、2つのアプローチを提案している。ひとつが、旅行会社や観光施設、旅行代理店などに対して、大規模なグループ旅行の受け入れから、より安全な小人数のグループ旅や家族旅行へとシフトし、それに合わせて事業を再構築しよう、というアドバイスだ。

もう一つの提案が、歴史的遺物や風景、少数民族の文化などを紹介するなど、ベトナムの観光客にとって身近な視点での観光商品の開発や、広告活動だ。 「観光関連産業に携わる企業は組織を再編し、事業アプローチを転換させる必要がある。外国人観光客だけに焦点を当てるのではなく、ベトナム人の観光客も、これまで外国人観光客向けに提供されてきた価値の高い旅行商品が体験できるよう、国内顧客を歓迎し、サービスを提供する必要がある」とフン大臣は話す。

ベトナム観光諮問機関による最近の調査では、市民の83%が「今年の夏は旅行に出かけたい」と答えているという。同諮問機関のホアン・ニャン・チン事務局長は、「安全性、柔軟性、体験と快適さ」が、価格面での割引以上に、顧客を誘引する重要な要素となりつつあると指摘する。

このような新たな潮流に乗り遅れないように、旅行大手のサイゴンツーリスト社は、短期滞在や、半日だけの日帰りパッケージ商品の開発へと視点を転換し、旅行者がこれらの情報に手軽に触れることのできるさまざまなアプリケーションを開発した。

一方で、「エンペラー・クルーズ」や「ヘリテージ・クルーズ」などのブランドで、ニャチャンやハロン湾、リゾートアイランドのカットバ島などでの体験ツアーを展開してきたラックス・トラベル社は、最近、ベトナム国内の観光客に向けた、体験型旅行や高付加価値商品を増やす努力をしているという。従来は外国人観光客向けだった5ツ星客船などを活用し、ベトナム人観光客向けのツアーを、手ごろな価格で提供を始めた。

「旅は目的地、体験と思い出が作り上げるものだ。新型コロナ禍であっても、顧客が感染対策などに責任をもって旅行をしてくれれば、業界はさまざまな新しい価値観を提案し、顧客が楽しめるような商品を提供していく用意ができている」と、同社のファム・ハー社長は自信を見せる。