ベトナムで必須の涼アイテム ゴザの産地を訪ねて

ベトナム南中部のビンディン省は、南シナ海に面した自然豊かな州。省都のクィニョンはリゾート地として知られ、マグロをはじめとする水産業やコメやヤシ、キャッサバの栽培や農業加工品の生産が盛んだ。まだまだ日本人の知名度は高くないが、ハノイから飛行機で1時間半、ホーチミンからは1時間という立地や、豊富な農林水産資源、安価な労働力など地域のポテンシャルは高い。中国や韓国、日本企業の進出はすでに始まっており、今後、ますます注目されそうだ。ビンディン省の文化や産業、特産品、文化、史跡の現地ルポをシリーズで紹介する。

気温が30度を超えることも珍しくないベトナム。そんな暑さをしのぐため、どこの家にも1枚はあるという「涼」のアイテムがある。ゴザだ。以前は日本でも、ごく普通に使われていたが、洋間の普及ともに、めっきり姿を消した。ベトナムでは床に敷いたり、ベッドに敷いたり、今でも現役で大活躍だ。さらっとした手触りと独特の涼感、青々としたイグサの香り。一度使い始めるとクセになりそうだ。ベトナムのゴザ産地の一つ、ビンディン省ホアイニョン区の生産現場を訪ねた。


目にも鮮やかなゴザ。熱帯らしい色使いだ

省都クイニョンから北へ約80㌔。2車線の道を4輪駆動車でひた走り、ホアイニョン区に入る。見渡す限り田畑が広がり、道路わきに農家の軒先には、もみ殻や、干し草が。どこか懐かしい、のどかな農村風景に心がやすらぐ。

ホアイニョン区は人口230万人。クィニョン市に次ぐビンディン省第2の地域で農業と漁業の第一次産業従事者が大半を占めている。農産物の加工品の製造も盛んで、その一つがゴザの生産だ。あちこちに青々としたイグサの畑があり、600世帯が年間10万枚を生産している。

小さな工場の軒先には、織り上がったゴザが何枚も広げられていた。赤、黄、緑・・・。さすがは熱帯。その派手なこと。ずいぶんとポップなゴザもあったものだ。地味なゴザに慣れ親しんだ日本人の目には新鮮に写る。


できあがったゴザが工場の軒先で干されていた


天日で干した後、鮮やかに染色されたイグサ

「正月の出荷のピークを終えて、今はちょっと落ち着いたところかしら」
工場の女性社長、レティ・アン・トランさんが笑顔で迎えてくれた。
吹きさらしの建屋の中では、織機がにぎやかに稼動し、数人の女性たちが慣れた手つきでゴザを織っていた。


工場では数人の女性が働いていた


手際よくゴザを織っていく女性

収穫したイグサを、2日間天日干し。染色した後、織り機で一枚ずつ織っていく。女性たちは、乾燥したイグサを一本一本、慣れた手つきで織り機にさしこんでいく。そのすばやいこと、器用なこと。この地域はほとんどが兼業農家で、女性たちは家計を支えるために、農作物の加工品工場などで働いているのだという。ここで働く女性たちも、一定の職業訓練を経て、この工場にやってくるのだという。


目にも留まらぬ速さで織り機にイグサを差し込んでいく


「ゴザ作りは、慣れれば簡単よ」とトラン社長

「慣れれば、そんなに難しい作業ではないわよ。柄に応じて、色のついたイグサを順番に入れていけばいいだけよ。1枚仕上げるのにだいたい1時間くらいかしら」(トランさん)

織り機は、ゴザの幅によって1㍍40㌢と、1㍍20㌢の2種類がある。長さは自由に変えられるが、だいたい1枚作るのに3㌔ほどのいぐさを使う。この工場では、1日に90~100枚生産している。

できあがったゴザを触ってみると、さらさらした乾いたイグサの触感が気持ちいい。天然素材ならではのやさしい肌触り。これなら、汗をかいても、心地よく寝られそうだ。節電や省エネ、温暖化防止が叫ばれる昨今、こんな製品が手ごろな価格で身近にあれば、エコな涼グッズとして日本でも再び脚光を浴びるかも。