チャンパ王国の繁栄伝える ベトナム中部のビンディン遺跡群 1

ベトナム南中部のビンディン省は、南シナ海に面した自然豊かな州。省都のクィニョンはリゾート地として知られ、マグロをはじめとする水産業やコメやヤシ、キャッサバの栽培や農業加工品の生産が盛んだ。まだまだ日本人の知名度は高くないが、ハノイから飛行機で1時間半、ホーチミンからは1時間という立地や、豊富な農林水産資源、安価な労働力など地域のポテンシャルは高い。中国や韓国、日本企業の進出はすでに始まっており、今後、ますます注目されそうだ。

ビンディン省を車で走ると、小高い丘の上の建つ赤いれんがの塔をあちこちで目にする。ベトナム中部で2世紀から19世紀に栄えたチャンパ王国の遺跡群だ。高々とそびえる塔が2本、3本と並ぶ姿は壮観で、れんがが赤く映える夕暮れどきには、いっそう美しい姿を見せる。まるで、ファンタジーに登場する“天空の城”のようだ。現存する遺跡は18カ所、建造物は14に上る。遺跡では修復、整備が進められており、歴史遺産として今後ますます注目されそうだ。ビンディン遺跡群の魅力を、2回にわたって紹介する。

街中にそびえる赤れんがの塔 / 珍しい2本構成 
ビンディン遺跡群の中で、最もアクセスがよく、気軽に訪れることができるのがビンディン省の省都、クィニョンのタップ ドイ(Thap Doi)だ。商店や住宅が軒を連ねる市街地のど真ん中に、2本の塔が悠然とそびえる。塔は高い方が、29㍍。隣が17㍍。王国が繁栄していた12世紀~13世紀ごろに建てられたと推定されている。


見上げるような高さの17㍍と29㍍の2本の塔

塔の四方にはインドの鳥神、ガルーダが

タップ ドイは「2つの塔」という意味。チャンパ王国の塔は通常、1本か3本で構成されており、2本構成は珍しい存在。しかし、おそらく3本目のためのものであろう基礎部分が残っている。建設途中にあったものが、何らかの理由で完成しなかったのではないかと推測されている。

  
入り口は日の昇東向きに設けられている


ぴったりと組まれた赤れんが


ブロックを組むように、れんがを積み上げて、さまざまな装飾が施されている


優美な曲線を見せるアーチの連なり

建物は中部の伝統洋式で基礎部分が大理石で、入り口は日の昇る東方向を向いている。塔の四方向にはインド神話の神鳥、ガルーダがまつられている。れんがは、焼成してから積み上げたという説と、れんがを積み上げてから塔全体を焼いたという説がある。なるほど、内部から天井を見上げると、塔自体が一つの窯のような構造になっているようにも見える。


塔の内部に安置されたご神体。男性器と女性器を象徴している


細かな彫刻が再現されたご神体の細部                            

塔にまつられていたのはシバ神で、内部には、お皿のような形をした女性器と、棒状の男性器の象徴を組み合わせた石造のご神体が安置されている。旧暦の正月に行われる沐浴の儀式では、ここにヤギの乳を流し、流れてきた乳を聖水として、女性たちが持ち帰ったという。

タップ ドイは1981年に国の文化遺産に認定され、1990年ごろから修復が続けられている。入場料は8000ドン(約40円)。

 

遺跡見学の際には“ベトナム風お好み焼き”も
タップ ドイを訪れたら、ぜひ一緒に立ち寄りたいのが、道路を1本はさんで、すぐ向かいのベトナム風お好み焼き(またはベトナム風クレープ)、バインセオ専門店「アム ニャット ヤー ヴィエン(Am nhat gia vien)」。店名は、「秘伝の味」という意味。ベトナムの伝統的な建築スタイルを再現したしゃれた店構えで、朝から大勢の客でにぎわっている。

バインセオは、米粉とココナッツを練ったタネをフライパンに薄く円形に広げ、その上にエビやモヤシなどの具をのせて一緒に焼くベトナムのB級グルメで。アツアツの焼きたてを、水にぬらして柔らかくしたライスペーパーでクルクルっと巻いて、巻きずしのようにパクッとかぶりつく。しっとりしたライスペーパーとパリパリッとした具の触感が最高で、3~4本はいける。遺跡見学の後、地元の人たちにまじって、本場のバインセオをパクつけば、よりディープなベトナムの世界が堪能できる。