高く、深く- 名峰・大山を撮る。建築技師、福田さんの記録 ①

一級建築士の福田博三(ひろみつ)さんは、鳥取県の職員(建築技師)として長年にわたり公共施設の営繕業務を担当。県立高校の建設や県営住宅、警察署、県立武道館などの新築工事の監理を務めた。また、大山にある避難小屋の営繕・補修業務にも携わり、同僚とともに、登山者の安全を支えてきた。

中国地方の最高峰・大山。「日本四名山」に数えられ、四季折々の美しさで登山者を魅了する。雄大にして荘厳、古くから神聖な山として山麓の地域で暮らす人々をはじめ、多くの人に尊ばれてきた。「大山さんのおかげ」いう言葉は地域に受け継がれている。

福田さんは、西伯郡名和町(現大山町)で生まれた。自身の写真集では「南の地平線には北壁正面をこっちに向けた大山の『デン』と構えた姿が、いつも見えているところに育ちました」と振り返る。大山は身近な存在であり、仕事場だ。「大山四季コン特選」をはじめ、数々の賞に輝く福田さんの山岳写真は「見たことのない大山」の姿をとらえる。

登山者にとってかけがえのない存在である「元谷」、「6合目」、「大休峠」、「駒鳥」、「ユートピア(三鈷峰)」、「頂上」の各避難小屋は、鳥取県をはじめ山岳関係者によって維持管理されている。福田さんは避難小屋の建て替え工事の際に、基本設計や現場監督員を担当したほか、同僚とともに各避難小屋に赴き、建物の内外で営繕・補修が必要な箇所を調査、登山道の様子やコンクリート堰堤も調べてきた。大山の写真は、業務とプライベートの山行の記録だ。

営繕・補修に伴う撮影は、業務での効率が最優先される、普段はキヤノンの名機が相棒でも、荷物の重量を考慮してコンパクトカメラが選定されることも多い。撮影(山行)の時期や撮影場所も、業務のスケジュールと目的地へのルートによって決まる。

「この時期、あのルートなら、ここで撮影できる」という、経験によって培われた豊富で生きた知識が、あらたな大山の魅力を捉えることを可能にするのだろう。

下の3枚は、そんな豊富な経験によって可能になった写真と言えそうだ。

撮影場所は行者尾根の登山道、撮影日は2011年10月29日、勾配が強く、きつい山行が続いた。1枚目はブナ林を見上げた写真。2枚目はその林を横からみたもの、勾配を感じることができる。そして、3枚目、紅葉が美しい「秋の北壁」だ。

実はこの北壁を望むことができた人は少ない。福田さんは話す。「上り勾配が続く苦しい山行では下を向き、ひたすら歩くことが多くなります。そんな時、ふと顔を上げてみると、見事な北壁の景色が広がっていました」。

トップの写真は「親指ピークの晩秋」。撮影は2002年11月3日、ユートピア避難小屋の修繕に伴う山行だった。親指ピークは標高1300メートル付近にある岩峰。写真には福田さんが好きな「自然と人々」がとらえられている。
福田さんのキャプションをご紹介します。

山の秋は山頂から麓(ふもと)へと駆け下る。
大山山域最深部に位置する阿弥陀川源頭。其処を取り囲む絶壁の東稜線上にこの岩峰があり、大休峠とユートピア小屋の、ほぼ中間辺りに位置している。
普通、一般の登山者だけでは入らないルートであり、このピーク越えはいつも静かな山行となる。ただし、山中で出会う人がいないという事は、見ている人が誰もいないという事でもありこのルートをやる場合は必ず経験者の同行が必要となる。

登山の安全を支えている福田さんらしいキャプションだと感じた。