「生活と仕事、満足感の相関」-和歌山大学経済学部 厨子直之先生

 

News Liner(ニュース ライナー)がお届けしておりますラジオ大阪(OBC 1314kHz)の情報番組「朝かつ」(毎週日曜午前7時20分)。番組に登場して頂いたゲストの皆様の貴重なお話を掲載します。

今回のゲストは、和歌山大学経済学部の厨子直之・准教授。テーマは「生活と仕事における満足感の相関関係」。生活に満足していると、仕事にも満足できる?―というお話です。

和歌山大学経済学部の厨子直之です。今回は「生活での満足感と仕事での満足感には、どのような関係にあるか」についてご紹介します。よろしくお願いします。

1960年代後半から1980年代にかけて、私の専門である「人的資源管理」の分野で盛んに研究されていたテーマに「QWL(Quality of Working Life):労働生活の質的向上」というものがありました。人間らしい労働生活を送るために、どのような職務内容や労働条件が必要になるかが議論されてきました。その後、「労働生活の質的向上」ということを考える時に、職場での働き方だけでなく、仕事以外の生活も含めた広い視野で検討すべきであるという見方に変わってきました。

近年、働く人の価値観として、「ワーク・ライフ・バランス(Work Life Balance)」=仕事と仕事以外の生活の調和を重視する方が増えています。「生活の中心が仕事」という前提がますます成り立たなくなっているわけです。

仕事での満足感と仕事以外での満足感との関係については3つのモデルが想定されてきました。モデルをご紹介する前にご説明します。仕事での満足感を学術用語では「職務満足感」と呼び、仕事以外での満足感を「生活満足感」と呼びます。

仕事での満足感と仕事以外での満足感との関係についての第1のモデルは「流出モデル」です。「職務満足感が高いと生活満足感も高くなる」「生活満足感が高いと職務満足感が高くなる」という関係です。仕事と生活は相互に影響するという考え方です。例えば、職場で上司から褒められて仕事が楽しいと感じると、家族との団らんも楽しいと感じる。逆の場合もあります。家族との団らんで楽しいと感じていない人は、仕事でも楽しくないと感じるということです。

第2のモデルは「補償モデル」です。「職務満足感が低いと生活満足感が高くなる」もしくはその逆「生活満足感が低いと職務満足感は高くなる」という関係です。要するに、仕事と生活は一方で満たされない満足感を他方で満たすという考え方です。例えば、仕事が楽しくないと感じている人は、仕事終わりに仲間と飲み会を楽しんで生活を充実させるということです。逆に、家庭で嫌なことがある人は、仕事に没頭して仕事を充実させるということです。

第3のモデルは「分離モデル」です。「職務満足感と生活満足感は切り離されており、両者に関係はない」というものです。仕事と生活は全く領域が異なるため他方の影響を受けないという考え方です。

今回、琉球大学の皆さんと共同で、沖縄県にある「美ら(ちゅら)海水族館」で、観光客195人(男性109人、女性80人、性別未回答6人)に対して、アンケート調査を行いました。その結果、「仕事でハッピーだと仕事外での生活もハッピー」、逆に「仕事外での生活がハッピーだと仕事もハッピー」ということが分かりました。調査の分析については改めてご紹介します。

1990年に亜細亜大学の小野公一先生が、3つのモデルのうちどれが当てはまるかを、首都圏を中心に任意抽出された18歳以上の働く人々361名に対して行ったアンケート調査によって、明らかにされています。分析の結果、男性のサンプルでのみ流出モデルの妥当性が証明されました。

小野先生の調査は、今から23年前に行われたものです。今日、女性の社会進出が進み、性別問わず仕事生活と仕事外生活の関係は、ますます関心の高いトピックスだと思われます。

次回から、厨子研究室で実施したアンケート調査の結果をもとに、職務満足感と生活満足感の関係について紐解いていきたいと思います。
(その2に続きます)