VJSE2013  第6回ベトナム・日本学生学術(科学)交流ミーティングにおける前田泰昭先生の基調講演を掲載いたします。

 

バイオディーゼル燃料の上流から下流まで
: SATREPS (地球規模課題対応国際科学技術協力)の取組を例にして

大阪府立大学
地域連携研究機構 特認教授
前田 泰昭

1.研究の背景
(1)地球規模の課題解決に資する研究課題の背景
小泉元首相の"原発ゼロ"発言に対して、安倍首相が無責任な発言であると反論して新聞を賑わせている。一方で地球温暖化防止のためのCOP19がポーランドで開催され、日本の2020年のCO2発生量を2005年度と比較して3.8%削減すること(1990年と比較すると3%増加、一方ドイツでは21%削減)が検討されている。鳩山元首相の”1990年と比較して25%削減“が実現可能かどうかは別として、これと比較するととても削減とは言えない。温暖化防止対策の一つとしてバイオマスエネルギーの利用が注目され、実施が始まっている。しかし原料の選択、植える場所の選択、製造技術の未熟さ、行った対策の正確な評価の欠如によって、現行のバイオマスの利用に対しては、食糧や飼料の価格高騰などが指摘されて、先進国においても社会的に十分受け入れられているとは言えない。BDFの普及を妨げている理由は

(1)良い原料が無い、(2)良い製造法がない、(3)日本では3%、5%の軽油への添加を推奨しており、真剣にBDF100%で使用するための凝固点降下剤 (PPD)や酸化防止剤の開発に取り組んではいない。
また原料に対しても、下記のように、将来の第三世代までが候補として考えられているがそれぞれの原料の問題点に対応した研究が行われているとは言えない。

そこで食料供給と競合しないエネルギー作物で、かつ、気候や土壌の条件が厳しい荒廃地でも生育可能であるため、貧困削減対策に貢献しうることから、ベトナムで注目され、近年植林の研究が開始されている、Jatropha Curcasを原料としてバイオマスエネルギーの製造を行い、実効性があり且つ多益性も期待できる温暖化緩和策のための研究を行い、ベトナムでその実施を図ることを目的として以下のプロジェクトを実施した。

1) ベトナムでの貧困対策として北西部山岳地帯及び中部土壌汚染地帯で管理した最善の方法で、非食用油を採取可能な樹種の植林を行う。ベトナムで植林の可能な荒廃地でのダイオキシンを含む土壌汚染の実態を明らかにするため、汚染レベルと範囲の迅速な同定方法を開発し、開発した方法で汚染度の調査を実施する。
2)Jatropha油から高効率で廃棄物の少ないクリーンなBDF製造法を確立する。
3)製造したBDFをジーゼル機関車およびバス、トラックなどの公共交通手段に利用し、大気汚染の改善、温暖化ガス排出削減を実証する。
4)1)-3)までの検討結果に基づき、BDF原料植物の植林、BDFの製造、BDFの利用による、炭酸ガス削減、貧困対策、大気汚染削減の有効性を他の地球温暖化ガス排出削減方法と比べ、その多益性クリーン開発メカニズム(CDM )としての実効性を評価する。その結果、ベトナム側のカウンターパートが本研究を継続して実施し、持続的エネルギーの製造・供給・利用体制が構築されるようにする。さらにベトナム周辺国に本研究成果を普及する。

A:なぜJatropha Curcas の植林か?
1)非食用油である。2)単位面積当たりの収量が3-5t/haと多いとされている(菜種 <1t、大豆 0.3t)

B:なぜベトナムか?
1)戦後35年以上たっているのに未だにダイオキシン汚染の被害が残り、さらに焼畑も加わって、900万ha以上の荒廃地がベトナム全土にあり、森林の伐採をしないで植林ができる。
2)インドシナ半島全体への中国による借地、無責任なキャッサバなどの植林による更なる荒廃地の増加に対応すべく、ベトナム政府が500万haの林業局管理下の植林を急いでいる。

一方1961年から1971年にかけて、ベトナムで枯葉剤によって破壊された面積が森林で200万ha、耕作地で約24万haと報告されている。エージェントオレンジはベトナムのかなり広い地域に散布されているが、その中でも主な汚染地域は表1に示すように、南部1箇所と中部2箇所である。これらの地域での汚染状況の把握と土地利用が緊急の課題となっている。
ダイオキシン汚染については被害が大きく扱われているが、すでに戦後35年以上を経ているため実測値は極めて低い(表2参照)。しかし、今でも多くのハンディキャップを持った子供が誕生するなど(写真3参照)、汚染の実態は明らかでない。最近では重金属汚染、農薬汚染など経済の発展とともに顕在化してきた他の土壌汚染と混同した被害も多く報告されている。

[caption id="attachment_5301" align="alignleft" width="115" caption="写真1.北部荒廃地山岳地域"][/caption]

[caption id="attachment_5302" align="alignleft" width="115" caption="写真2.Jatropha Curcas の植林"][/caption]

[caption id="attachment_5303" align="alignleft" width="115" caption="写真3.ダイオキシン汚染被害の子供たち"][/caption]

 

 

 

 

 

これ以外にベトナムでは世界の95%以上を生産し、輸出しているナマズから搾油するナマズ油が約30万tもある(ナマズ工場の写真4参照)。さらに中部ではゴムのプランテーションが盛んで(写真5:中部でのゴムの植林)、現在70万haもの植林地で、80万tのゴムペーストが取れており、ゴムの実は殆ど利用されずに廃棄されている。

[caption id="attachment_5314" align="alignleft" width="184" caption="写真4.An Giang市のナマズ解体工場"][/caption]

[caption id="attachment_5315" align="alignleft" width="184" caption="写真5.中部ベトナムのゴムの植林"][/caption]