ベトナム・日本学生学術交流 前田泰昭先生の基調講演 その③

 

引き続き、VJSE2013  第6回ベトナム・日本学生学術(科学)交流ミーティングにおける前田泰昭先生の基調講演を掲載いたします。

 

D:BDFの交通機関への利用には問題がないのか?

1)排ガス中の窒素酸化物の増加が指摘されている。2)エステルを燃料とするため、亜硝酸エステルや硝酸エステルのようなまだ確認されていない新しい大気汚染物質の発生の可能性がある。3)グリセリンの燃焼についても高粘度であるため、低粘度の他の燃料との混合または特別なバーナーの開発が必要である。グリセリンはアルコールであるので、燃料電池の燃料などほかの利用が可能である。

[caption id="attachment_5342" align="alignleft" width="115" caption="写真9.発電機でのBDFの利用"][/caption]

[caption id="attachment_5343" align="alignleft" width="115" caption="写真10.ハロン湾の船への利用"][/caption]

[caption id="attachment_5344" align="alignleft" width="115" caption="写真11.府立大学バスでのB100利用"][/caption]

 

 

 

 

 

[caption id="attachment_5349" align="aligncenter" width="368" caption="図D-1.軽油とBDFを燃料としたバスからの排ガス中の汚染物質"][/caption]

 

写真9,10,11に示すように、実際にベトナムで、ジーゼル発電機とハロン湾のゴミ収集船に、日本ではバスにBDF100%で使用し、全く問題は起こらなかった。

府立大学でバスに、軽油、BDFおよび軽油にBDFを20%混合した燃料によって、排ガスの測定を行った。図D-1に示すように、BDF を燃料とするとNOx以外で、軽油より汚染物質が減少した。
このような共同研究によって、下図に示したように、BDF原料樹種の植林、BDF製造、BDFの利用のそれぞれ核となる研究を一体とした、地球温暖化緩和対策、環境汚染削減対策、貧困削減対策の多益性CDMの実現を目指す。汚染土壌の分析、植林、油の採取、BDFの製造に関しては、これらの課題に熱心に取り組むことを表明しているベトナムの最前線の機関に日本で蓄積された技術を必要に応じて移管し、効率の良い研究の実施を図る。


日本の技術とベトナム側のニーズがうまく組み合わさることにより、本研究終了後も、本研究に参画した機関が自立して研究を継続し、ベトナム国内および周辺国への技術の普及を図るための知識と能力、さらにノウハウを得ることができる。このように上流から下流までを通してプロジェクトを実施するためには、日本とベトナムの両国のいくつかの機関の協力体制を構築する必要がある。

E:グリセリンを燃料とした高効率燃料電池の開発

E-1:グリセリンのマイクロ波精製
グリセリンは沸点が290℃と極めて高く、通常の過熱蒸留では時間がかかり、蒸留中に重合物が生成する。本研究ではグリセリンが分子内に3つのOH基を有し、水の過熱に用いられる電子レンジで迅速に過熱されることが予測されたので、下の写真12に示したマイクロ波加熱機と同じ500Wの電力を必要とする電気ヒータ法を比較していくつかの物質について加熱曲線を調べた。マイクロ波で加熱すると図-6に示すように、通常の電熱器加熱の約1/10の消費電力で蒸留が可能であった。

[caption id="attachment_5353" align="alignleft" width="184" caption="写真12.マイクロ波加熱機(電子レンジにテフロン製容器を装着したもの)"][/caption]

 

 

 

 

 

[caption id="attachment_5355" align="aligncenter" width="368" caption="図E-1.グリセリンのマイクロ波加熱"][/caption]

[caption id="attachment_5373" align="aligncenter" width="368" caption="図E-2,3.メタノールと水のマイクロ波加熱"][/caption]

 

最終的に得られたグリセリンの純度は表-4に示すようにマイクロ波加熱法では99.5%以上で電気ヒーター法より高かった。

[caption id="attachment_5357" align="aligncenter" width="368" caption="表4.マイクロ波加熱法によるグリセリンの精製"][/caption]

 

E-2:グリセリン燃料電池への挑戦
白金線を用いた場合のメタノール、エタノールとグリセリンの結果を図E-3,4に示す。

[caption id="attachment_5358" align="alignleft" width="184" caption="図E-3.メタノールとエタノール燃料電池(小さいピークがメタノール、大きいピークがエタノール)"][/caption]

[caption id="attachment_5359" align="alignleft" width="184" caption="図E-4.グリセリン燃料電池(2つの山が観察され、酸化が2段で起ているとかんがえられる)"][/caption]

 

 

 

 

 

 

 

超音波照射によるナノ微粒子の調整とその燃料電池電極触媒への応用を検討した。超音波照射によるナノ微粒子調整手順を図E-5に用いた装置の概略を図E-6に示す。

[caption id="attachment_5361" align="alignleft" width="184" caption="図E-5.ナノ微粒子調整手順"][/caption]

[caption id="attachment_5362" align="alignleft" width="184" caption="図E-6. 超音波照射装置"][/caption]

 

 

 

 

 

Pdコア―シェルナノ微粒子の水素活性化触媒活性
超音波で調製したPdの種々のコアーシェルナノ微粒子の水素活性化活性を測定した。図-11に示すようにPdをシェルに、銅をコアにした触媒が最も活性が高く、Pdのみの貴金属ナノ微粒子より5倍以上も活性が高かった。このようにコア-シェル型ナノ微粒子では表面の金属の性質だけでなくその活性は中のコアの金属によっても変わることが明らかとなった。

[caption id="attachment_5363" align="alignleft" width="184" caption="図E-6.種々のPd-Cuナノ微粒子の水素化活性"][/caption]

[caption id="attachment_5364" align="alignleft" width="184" caption="図E-7.Pdナノ微粒子を触媒としたエタノール燃料電池"][/caption]

 

 

 

 

 

 

 

図E-6.はさらにPd溶液を超音波で長時間照射すると、活性は下がることも示している。これは超音波の作用によって微粒子同士が衝突し、粒径が大きくなることによると考えられる。またCu(0)の濃度を1mMから10mMと10倍にするとこれも活性が低くなった。この両者のXRD分析から、1mMのPd 溶液に対して同量のCu(0)を加えると、銅微粒子の表面全体にPdが薄く存在し、コアーシェル型の微粒子が生成しているが、Cu(0)の量がPdの10倍も存在すると、銅微粒子の表面全体をPdで覆うことができず、一部はコアーシェル型であるがそのほとんどがCuとPdの微粒子の混合物であることが分かった。このように水素の活性化にはCu-Pdのコアーシェル型微粒子が特別に活性が高いことが分かった。Cu以外の遷移金属、たとえばNiやCoさらにMnとPdとのコアーシェル型ナノ微粒子の作製と水素化活性を調べる必要がある。

Pdナノ微粒子をシート状にした、Pdシートを触媒として、エタノールの酸化電位を求めた。結果を図E-7に示す。4本電極を作製し、平均のアルコール酸化電位は – 224.2 mVだった。比較で合成した球状 Pd ナノ粒子の平均アルコール酸化電位は -228.8 mV だった。酸化電位の値が低いほど触媒活性が高いので、平均の電位に関しては球状 Pd ナノ粒子の触媒活性が高いという結果になった。しかし、球状 Pd ナノ粒子のアルコール酸化電位の範囲が、- 225 mV から – 230 mV であるに対して、シート状の Pd ナノ粒子がとる範囲が – 215 mV から – 240 mV と幅広い値となり、高性能の結果を選ぶとシート状の Pd ナノ粒子が– 240mVと最も高い活性を示すことが分かった。今後グリセリンを燃料として用いたPdナノ微粒子の触媒活性の検討および二酸化マンガンナノ微粒子とPdナノ微粒子の混合触媒の検討が必要である。本実験で使用したナノ微粒子の電極は強度が低く、数回の実験を繰り返すと、活性が低くなった。
京都でバイオマス研究会が活発に活動され日本のバイオマス研究の中心の一つであることは前から知っていたが、なかなか参加する機会がなかった。今回、研究会で発表する機会を与えてくださったことに心から感謝をするとともに、資源と原料のない日本でどのようにバイオマスエネルギーが普及するかについて産官学の全日本で研究を継続することの必要性を強く感じている。