「向上心を持つことが見返りを求めない行動を促す!?」和歌山大学経済学部 厨子直之研究室(ゼミ)の研究成果

厨子直之先生 おはようございます。前回、報酬には直接結びつかないが、自ら極的に進んで誰かの役に立つようなことを表す行動である「組織市民行動」が、最近注目されているということについてお話ししました。

今日は、学生組織において、どのような要因がメンバーの組織市民行動を促すのか、組織市民行動は本当に組織にとって良いことなのかについて、厨子研究室で実施した調査の結果をご紹介させていただきたいと思います。

ここからは、調査を実際に行ったゼミ生にも参加してもらって、お話しさせていただきたいと思います。
《この放送回では、ゼミ生の大浦千尋さん、高槻宥吾さん、中野彰文さん、西江宏騎さん、丸尾美子さんにも発言して頂きました》

ゼミ生 2013年8月1日~9月10日の期間で、和歌山大学、関西大学、関西福祉科学大学の学生372名に対して、アンケート調査を行いました。

アンケートは、すべて「1.そう思わない~5.そう思う」の5段階で評価してもらいました。組織市民行動に影響を与える要因として、「活動満足」、「集団凝集性」、「向上心」、「好きな人への意識」の4つを想定しました。すべて回答者が所属しているゼミ・部活・サークルといった学生組織を思い浮かべながら回答してもらいました。

「活動満足」とは「組織の活動自体に満足している程度」のことで、「毎日、活動に参加するのが楽しい」など8問で尋ねました。「集団凝集性」とは「組織メンバーのまとまりの程度」のことで、「自分たちの集団は、プライベートでも仲良しである」など7問で尋ねました。「向上心」とは「自己成長したいという気持ちの程度」であり、「集団の中で自分を成長させていきたい」など8問で尋ねました。「好きな人への意識」とは「好きな異性からの自分に対する評価を意識する程度」のことで、「好きな人の気持ちを理解するように常に心がけている」など9問で尋ねました。最後に、組織市民行動については「他者のトラブルに対して自ら進んで手助けを行うようにしている」など13問で尋ねました。

集められた372名分のデータを用いて、 SPSSという統計ソフト用いて統計分析を行いました。今回使用した分析手法は、「重回帰分析」と呼ばれるものです。重回帰分析とは、「1つの結果に対して考えられる原因のうち、どの要因が影響しているか」を調べる分析方法です。今回の分析でいえば、「組織市民行動」に与えると考えられる要因のうち、「活動満足」、「集団凝集性」、「向上心」、「好きな人への意識」のどれが影響するかを特定することになります。

重回帰分析の結果、「活動満足」、「集団凝集性」、「向上心」、「好きな人への意識」のすべての要因が、組織市民行動を促すという結果が、統計的に実証されました。つまり、「自分が参加している活動に満足している人ほど」、「自分が所属している集団のまとまりが良いほど」、「向上心が高い人ほど」、「好きな人に対して意識を払っている人ほど」、組織にとって良いことを自発的に進んで行っているという結果です。

さらに興味深いことは、組織の業績について「組織活動が効率的に行われている」など3問で尋ねましたが、メンバーが組織市民行動をよく行っている学生組織ほど、組織全体のパフォーマンスを高める、という結果も確認されました。組織市民行動は、個人レベルだけでなく、組織全体に対してポジティブな影響があるということです。

厨子先生 分析結果で注目していただきたいことは、「向上心」です。今回は学生組織を対象とした結果ですが、学生時代から向上心を持って行動している人は、将来、企業組織でも、見返りを求めず組織全体のパフォーマンスを高める行動を積極的にとる可能性があります。モチベーションの理論の中で、仕事における自律性を高める工夫が従業員の仕事満足を高めることが強調されますが、それはあくまでも成長意欲が高い人に対して有効であるという実証結果もあります。どうやら、常に成長したいという気持ちも持つことが、自身のモチベーションを高めるだけでなく、組織全体にとって望ましい行動をとる源であるといえそうです。

Vietnam News Liner 提供 ラジオ大阪(OBC)情報番組「朝かつ!!」から