「われわれは極端な民族主義を奨励していませんが、中国がわれわれに対してどのような扱いをしたか、振り返ってみることが必要です。中国は『友好』を口にしているにも関わらず、我々の領土を占有しているのです―ヴ・クワン元副首相=写真=はこのように話した。(ベトナムタイムズ)

ヴ・クワン氏は、下旬に予定されている米国のオバマ大統領のベトナム訪問に先立って、ベトナムと米国の関係やベトナム東部海域(南シナ海)の情勢、そのほかベトナムを取り巻く喫緊の課題について、率直な見解を聞かせてくれた。

数多くの重要な課題が議論に

――(ベトナムの)多くの人々は、5月下旬に予定されるバラク・オバマ米大統領のベトナム訪問が協力関係の新たな展望を切り開くと考えています。しかし、その反面、オバマ大統領は米国大統領任期の末期にいますので、今回の訪問は社交的な訪問に過ぎないと考える人もいます。長年、外交官として外交活動を行い、しかも、ベトナムの共産党、国家の高官の経験から見て、ベトナムは今回の訪問にどの様な期待が出来るでしょうか

首脳の外交訪問は、具体的な合意に至らないとしても、象徴的な価値を有するものです。米国大統領のベトナム訪問は、それ自体に重要性を見せており、政治的な計算の枠組みにあるというより、米国の戦略的重要な考えであるでしょう。

この訪問は、アメリカが戦略的にアジア・太平洋へ軸を変えることが背景にありますが、ベトナムは、そのアジア・太平洋地域において地政学的にも経済地理的にも非常に重要な位置を占める国です。

最初に、この訪問の象徴性を強調したいと思います。第1に、それは、米国の政策がアジア・太平洋地域を、その中でベトナムを重視する、と示すことでしょう。第2に、それは、ベトナム・米国の関係が更に上のレベルに達したことを意味するでしょう。この21年間を振り返ってみますと、この関係は一歩ずつ前進しているでしょう。1993年にビル・クリントン大統領が制裁を解除し、1995年に国交を樹立、2000年になってベトナム・アメリカ貿易協定(BTA)を締結しました。そして、2006年にWTO(世界貿易機関)交渉を終え、ジョージ・W・ブッシュ大統領がベトナムを初めて訪問しました。

一方、2005年にファン・バン・カイ首相が米国を公式訪問し、更に、2015年にはグエン・フー・チョン ベトナム共産党書記長が米国を訪問し、ホワイトハウスに入りました。それらの訪問は両国における関係の新たな発展の節目になっており、今回のオバマ大統領のベトナム訪問は関係の更なる進展を意味するでしょう。

――次にこの訪問の実質性についてお話したいです。首脳の会談において、ベトナムと米国は両国の関係を強化させる政策が提言されるのでしょうか。オバマ大統領の任期が満了を迎えることから、「政策の提言は出来ないのではないか」と、懸念を見せる人もいるかも知れません。しかし、米国というのは、誰が政権を担うとしても、その政権が米国の利益を最優先にせざるを得ない、立場でしょう。しかも、前にも述べましたように、アジア・太平洋の地域は、米国の世界戦略においても非常に重要な意義を持つ戦略的な地域です。あなた(ヴ・クワン元副首相)から見て、この訪問で両国は具体的にどのような内容について協議するでしょうか

具体的な内容に関する結果は、双方の交渉次第ですが、一連の重要な課題を両国は待っていますので、両国の首脳が必ず協議するでしょう。例えば、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)については、両国がTPPの加盟国なので、如何に批准すればよいか、如何に実施するか、そして、米国はベトナムがTPPを実施出来るように、如何に支援すれば良いか。両首脳は、これらのことについて、時間を掛けて話し合うと思います。

ベトナムと米国が関心を寄せる第2テーマに国防での協力があります。この分野において、これまで大きな発展があったと思いますが、未だに解決出来ていない課題があります。それは、米国がこれまでベトナムの殺傷武器売買に対する禁止制裁を一部しか解除していないことです。米国の世論にこの制裁を解除するよう、要請の声が増えつつあります。この課題は両方が必ず協議すると思います。

第3のテーマは、ベトナム東部海域(南シナ海)についてです。ベトナムの立場及び米国のスタンスについては、言うまでもなく明確になっているでしょう。両サイドに共通の関心点がありますので、相談のうえ、ベトナム東部海域における安定した状態を維持させる様な対策を打ち出さないといけないでしょう。他にも、航行の自由及び航行の安全も相談し合意する必要があるでしょう。

第4のテーマはASEAN(東南アジア諸国連合)についてです。米国は、東南アジア諸国連合を大変重視しています。最近、カリフォルニア州で、オバマ大統領がASEAN10カ国の首脳と面談したのは、米国が諸国連合を重視する証拠であり、中にもベトナムはASEANの積極的なメンバーです。そのため、米国とASEANとの関係、あるいは米国とメコン川は両方が議論できるテーマになると思います。米国は、メコン川の諸国との間で話し合うフォーラムを一つ持っていて、幾年も継続していますが、旱魃(かんばつ)や気候変動が進んでいる新たな状況の中、気候変動への対応及びメコン川における協力関係も協議のテーマになるのではないか、と思います。

自ら自分を救助しようとしなければ、他人からの救助を望むべきではない

――外交経験が豊富な高官として「自助努力と他人(他国)からの救援」についてどの様にお考えですか。

私はその様なことを重要視する考えです。しかし、どこまで出きるか、どの様にするかは様々な要素に左右されます。その要素において、われわれの「実力」が非常に大事です。「実力」と言いますと、物質的と精神的の両面についてです。TPPがあっても、そのTPPがもたらす権益を、受け取れるか否かは、私たち次第で、天からの贈り物ではありません。それで、「運は寝て待て」の考え方を持ってはいけません。


(1995年-2015年、ベトナム・米国の投資、貿易の推移図)

――ご存知の通り、ベトナム・米国の関係は日増しに発展していますが、両国は、この関係を戦略的な関係、場合によって米国と日本、または米国と韓国の間にある様な同盟国の関係に引き上げることは出来ると思いますか。

まず、言わないといけないことは、一つの関係について、呼び方も大事ですが、実質的な部分がより大事です。実際、われわれは戦略的関係や「この国やあの国」(一部の国々)と特別な関係を持っていますが、実質的にはあまり効果がない関係もあります。その反面、われわれと米国との間にある関係は、全面的パートナーであり、戦略的なパートナーよりは「浅いレベル」にありますが、実質的に活発しており、数多くの効果をもたらすものです。

例えば、貿易は2014年に米国との間で360億米ドルに達しました。そのため、関係について、実質の部分に関心を寄せるべきで、どのレベルまでそしてどの様に格上げするかは、両国が自国の利益を始め、国際社会の戦略情勢や実現可能性に基づき、判断しないといけないでしょう。様々な面で検討が必要ですが、計算ばかりをするより、関係の実質を注目しましょう。

さらにお話したいことがあります。現在、「この国やあの国」(一部の国々)との関係に対して過剰な期待を見せる人が少なくありません。しかし、自国の居場所を認識しないといけません。実践的になって、民族の短期的及び中長期的な利益に基づいて、計算し、各種関係を判断するのが必要になって、無闇に判断するのは良くないのです。

他人からの護衛に頼らないで、自分の実力を活用するのが重要でしょう。過去、ベトナムは一部の国々の戦略的な計算に利用される立場に置かれた経験があります。世界の戦略的碁盤に置かれても、兵士の立場にならずに、少なくとも車、鉄砲、馬になった方が良いでしょう。

自分の命を自分で救おうとしなければ、他人からの助けが期待できないでしょう。まず、自分は自分のことを変えなければなりません。例えば、経済の面について、内部で抱える問題を自らで克服し、体制を刷新させ、優良な方法を導入する等、自分で上達が出来なければ、誰もが助けようがありません。

国際関係は、必要条件であり必要ですが、それだけでは不十分です。十分なところになるのは、国内の実力です。われわれは、自分の足で歩み、自分の頭で物を考え、判断しなければなりません。頭の回転が悪く、足踏みがしっかり出来ないものなら、誰からも必要とされず、誰からも助けなどありません。
《つづく》