「友好」と「占有」-中国の行動に言及 ヴ・クワン元副首相、外交課題について語る ベトナム紙インタビュー ②

ヴ・クワン元副首相=写真=は、下旬に予定されている米国のオバマ大統領のベトナム訪問に先立って、ベトナムと米国の関係やベトナム東部海域(南シナ海)の情勢、そのほかベトナムを取り巻く喫緊の課題について、率直な見解を聞かせてくれた。(ベトナムタイムズ)

ジンも地酒も「酒は酒」

――国際交渉の場に参加者が条件を出すのは一般的です。今回の米国大統領の訪問にも同様で、条件があるでしょう。その一つとしてこれまでにも登場した人権の問題があります。この人権問題は現在のベトナム・アメリカの関係において最も大きな課題だと思いますか。

これは相違の問題です。しかし、これが最も大きな課題ではないと思います。少なくとも、昨年、グエン・フー・チョン書記長が、米国を訪問した際、共同声明において、この問題にとって「釘になる」(互いを制する)ような発言がありました。それは、「双方がお互いの政治体制を尊重する」、「体制の選択により相反があっても、私は、米国の制度には反対するものではない、米国の問題なら、米国の国民が決定することだ。そのため、私の国のことについては貴方も干渉するべきではない」。

ベトナムの体制のことはベトナム人によって決定されるものです。その様な根幹なことは既に約束されたでしょう。

人間は、出生、生命及び幸福の追求と言った最も神聖な権利を有します。それは、人類の普遍的な価値であり、誰か個人の問題ではありません。われわれがこれまでの歴史において数多くの犠牲をはらったのもそのためです。ベトナムの独立宣言において「ホー叔父さん」(ホー・チ・ミン元国家主席)がどのように発言したか、皆さんが覚えているでしょう。そして、人権のことは、1946年の憲法にも規定され、2013年憲法にも明記されているでしょう。われわれが決して人類の価値に反した行動をしたわけではありません。しかし、やり方は、一歩ずつ進歩していますが、ベトナムの伝統、その都度の状況に合わなければなりません。

外国人の多くからこの問題についてよく聞かれました。私は次のように答えました。アメリカ人はジン、ロシア人はウオッカが好きですが、ベトナム人は地酒が好きです。どんな酒でも酒は酒で、アルコールを含むものです。人によって飲み方が違うだけです。貴方のジンを好むことに反対しなければ、私の地酒好みを非難するべきではありません。そして、食べ物については同じ肉や魚、ヌードル、米、野菜等でしょうが、国によって違う方法で調理され、違う食べ物になるだけです。

人権の問題についても同様、ジェファーソン大統領の独立宣言の言葉がホー叔父さんによってベトナムの独立宣言に引用されたでしょう。共通の価値で合致していますが、表現の仕方が国の状況によって違うだけです。そのため、アメリカ人からその様な要請をされても普通のことで、われわれとして、冷静に彼らとの対話を通じてお互いに理解出来るようにすれば良いでしょう。

ある行政担当者から「この問題についてどう対応しましょうか」と聞かれて、驚いたことがあります。「あれ?なぜ、対応することになるの?それは、『国民がその権利を享受できるように、われわれが努力するべきだ』と自分で認識するだけの話でしょう。自国の国民が人権を享受することを望まないわけではないでしょう」。われわれは人権のことを憲法に入れたでしょう。更に、最近、われわれには「沈黙の権利」と言った進歩的な規定まである。それは、自ら行ったことであり、他の国からの命令でしたわけではありません。

たとえ、アメリカに「(他国への)押し付け的な手法」があったとしても、それを展開するのは彼らの問題です。われわれは、自国の国民が、民主、幸福の追求に対する権利を享受できるように、努力しないといけません。それは、われわれの目標でしょう。

アメリカは中国の行動を放置しないだろう

――現在、一部の人は中国が冒険的な行動をして、ベトナム東部海域を段階的に制御するようにしているのは、いくつかの理由があると考えていますが、中国は次の2つのことを根拠にしているようです。第1にベトナムが関係の選択を躊躇していることです。第2に米国大統領の任期が満期を迎えつつありますので、アメリカは国内の業務に集中していて、東部海域における軍事力の拡大をする余裕がないことです。これらのことについて、どの様にお考えですか。

まず、ベトナムは国際関係、特にベトナム・アメリカの関係及びベトナム・中国の関係において、「躊躇していて、どうすれば良いか、自分たちの居場所がどこにあるか知らない立場にある」と言ってはいけません。これは、ベトナムが念入りに考慮して判断したことであり、「躊躇」とは言えません。外交活動というのは、無闇にしてはならず、国際関係においては自国にとって最も有益であるように検討しなければなりません。その検討については、公表出来ない部分があるので、一部の人がそれを利用して、ベトナムのことを「自分たちの観点を明確に公開できない」と煽っています。

現在の状況において、如何に独立、主権を保護し、安定を保持して、国を発展させるかは、頭を沢山使う必要がある極めて難しい宿題であり、決して「躊躇している」か否かの問題だけではありません。政府は、会議に会議を重ねて、様々な要素、可能性について検討したりしており、じっとして、躊躇しているわけではありません。

第2のことについてですが、確かにアメリカが大統領選挙といった対内の業務に集中していると思いますが、それが理由でアメリカは中国がベトナム東部海域において行っている行動に対して強固な態度を見せないことになるか―と言ったら、それは有り得ないことだと断言したいです。

アメリカには、躊躇の姿勢が見えず、米国の国会が態度を見せました。上院からも下院からも態度の表明がありました。オバマ大統領の政権も国務大臣も国防大臣も態度を見せました。そして、彼らはあれこれを検討し、あちこちに赴き、東部海域における安全保障を脅かす様な行動に対して断固とした態度を発表しているでしょう。

今回のベトナム訪問も彼らの関心があることを示すでしょう。彼らの戦略的な計算があり、どこまで実現するかは彼らの広大な利益を考慮したうえで決められるでしょう。アメリカは世界第1の強国であり、彼らの利益は、全世界的なものであり、ベトナムとの間の利益に限られるものではないことを覚えておく必要があるでしょう。

――われわれが極端な思想を奨励せず、極端な民族主義を扇動する方針は持っていません。しかし、現在のベトナム人が中国人に対して「遠慮がち」な態度を見せているのは、事実ではないでしょうか。このことについてどの様にお考えですか。

われわれの中国に対する対外方針は明確になっています。近隣の二ヵ国が友好的で共に協力して発展する方針です。何か不祥事があっても、ベトナムはラオスとカンジアと同様に中国の隣で生活する事実は、変更のしようがありません。近所同士が互いに相手の家にゴミ投げなどしてうまく行かないときがあっても、一緒に生活が出来るように問題解決をしないといけないでしょう。

われわれは、中国と比較して国が小さいことを認識しています。そのため、昔から中国軍の侵略があっても、戦闘をして中国軍を追い払ったら、ベトナムは直ぐに中国にまで行って仲直りのための和解をしてきたでしょう。それは、大きな国の隣に住んでいる小さい国の旨いやり方です。この千年間の間、我々がずっとそのやり方を使っています。現在のベトナムも同様で、中国と平和で友好的に生活したいから、戦闘による傷みを努力で我慢して忘れるようにしていますね。

1979年の戦争でも、南西国境の戦争でも被害が多かったでしょう。しかし、われわれが民族の発展のために、そう言った戦争のことを棚上げにして、彼らと友好関係を発展させないといけませんね。

現在、多くのベトナム人が中国人のことと聞いたらあまり楽しそうではないような態度になる心理は、確かにあります。しかし、それは皆が好きなことではありません。問題を別の方面から見たら分かるでしょう。なぜ、過去フランス人と日本人がベトナムに侵略で来ましたが、勝利したベトナム人は、フランス人や日本人の捕虜に対して親切で人道的に扱いましたね。そして、捕まった米国のパイロットに対しても、彼らの爆弾投下によって数多くの罪のないベトナム人が犠牲になったにもかかわらず、人道的に扱いました。戦争が終結して、国交が樹立されたら、ベトナム人はフランス人や日本人、アメリカ人のことを一切嫌ったりしていません。

ということは、中国人のことについては、ちゃんと理由があると思います。われわれは極端な民族主義を奨励していませんが、中国がわれわれに対してどの様に扱っているか、振り返ってみる必要があります。口では友好のことを言う彼らは、われわれの領土を占有しています。よって、中国がベトナムの民族を尊敬し、われわれの主権を尊敬するような政策を有さない限り、ベトナム人が中国のことを聞いたら皆遠慮がちな態度になるのも仕方がないことだと思います。

――どうも、ありがとうございました。