アジアでの協力関係強化を~京都産業大学の国際セミナー開幕

「東アジアにおける信頼の強化」をテーマにした国際セミナー(京都産業大学 世界問題研究所主催)が21日から、同大学むすびわざ館で始まった。初日は2部構成で議論が行われ、パネリストらは、問題は非常に複雑であるとしながらも、アジアでの協力関係強化の必要性を訴えた。同セミナーは22日も開かれる。

午前中開かれたセッション1は「いかにして東アジアの信頼を強化するか」をテーマに
Pham Quang Minh氏(VNU-Hanoi 人文社会科学大学 副学長)
劉 鳴氏(上海社会科学院 国際関係研究所 常任副所長)
Gilbert Rozman氏(プリンストン大学 マスグレーヴ名誉教授)
東郷和彦氏(京都産業大学 世界問題研究所長)
が意見を発表。
高原秀介氏(京都産業大学 外国語学部 准教授)が司会を務めた。

Pham Quang Minh副学長は「この会議を通じてネットワークを育んでゆきたい、と考えている。安全保障の関係は変化してきている。中国の軍事に変容があり、アメリカは安全保障でアジア・太平洋(地域)への関与を強めている。ASEANは重要な役割があり、新たなメカニズムを作ろうとしている。アジア・太平洋は大きな変化を遂げている。ベトナムは中国、アメリカという2つの大国の間にいる。(ベトナムは)「二者択一」の状況に置かれてはいけない。(ベトナムは)優位的にアジアで役割を果たしたいと考えている。繁栄する(東アジア)地域に貢献しなければならない。この地域は多くの国々が国益を有しているからだ」

劉 鳴 常任副所長は「今日は私の個人的な意見をお話したい。中国政府の意見、国際関係研究所の意見と離れているかもしれない。強い所有意識によって、理論的で冷静なアプローチができなくなる。相手の立場を見ず自国の意見を通そうとする。貿易相手としてお互いに依存関係にある経済と領土の問題において、矛盾、ジレンマに陥っている。しかし、領土領海問題で『どちらかが一方的に悪い』というのは間違っている。中国とベトナム、フィリピンは協力して油田開発を行ってきた経緯がある。領土問題は交渉可能。領土(交渉)出来れば、領海も交渉可能だろう」と述べた。

Gilbert Rozman名誉教授は「ASEANと北東アジアでは、中国をめぐる安全保障問題が共通の問題としてある。韓国、日本、中国の関係が悪くなるのは北朝鮮に対するうえで、非常に問題。北朝鮮をめぐる中国と米国の関係は不確かだ。ここでうまく協調できれば、他の問題もうまくいくかもしれないが…。北朝鮮問題はは差し迫った問題で、南アジア、ASEANといった幅広い協力関係が必要だ。歴史的なことばかりが強調されると、より大きなコミュニティーを作っていく努力が無駄になってしまう。日米の関心は、より東南アジアに向けられなければならない。アジアの外交や政策において共通のビジョンを持っていかなくてはいけない」。

京都産業大学世界問題研究所の東郷和彦所長は「今日起こっていることにがっかりしている。どのようにすれば、中国の強気の政策を理解できるのだろうか? 明治維新の直後に暗殺された横井小楠は、『国是三論』をまとめた。彼が挙げたのは富国、強兵、士道だった。士道とは、徳のことで、非常にリベラルで、日本をとりまく世界をグローバルに理解する、当時としては驚くような先見性が示されていた。日本はその後、富国強兵に突き進んだが、三つ目の士道を忘れた。亡くなった小渕首相は、『富国有徳』ということを掲げた。小渕首相がもう少し長く生きてくれれば、今の状況も変わっていたのではないかと思う」と指摘した。

午後からのセッション2は「南シナ海その他地域における海の安全保障と信頼醸成」をテーマに東シナ海と南シナ海における海洋権益の衝突の実態とそれを乗り越えるための議論が行われた。

岩本誠吾氏(京都産業大学 法学部 教授)
Kitti Prasirtsuk氏(タマサート大学 政治学部 教授)
Tran Van Doan氏(台湾大学 哲学部 教授)
Tran Viet Thai氏(ベトナム外交アカデミー戦略研究所 次長)
羽場久美子氏(青山学院大学国際政治経済学部教授)
が意見を発表。
司会は世界問題研究所の東郷所長が務めた。

岩本誠吾教授は「東シナ海における海上・空域安全保障への二つのアプローチ」として、国際法の共通理解の確立と軍事紛争回避措置の実施について、具体的な事例を上げながら発表した。

また、Tran Van Doan教授は「『受け入れる事』と『受け入れる事が出来る(受け入れられる事)事』は違う。『受け入れる事が出来る事』の条件は、平等・公平。そして完全な自由が背後にある。さらに、いかなる決断も公正(正義)であるべきだ。パートナーの誠実性、全ての人に利益がある事、多国的な行動が必要だ。二国間の協議で公正さが担保出来るだろうか。国際的な立場での取り組みが必要で、実現されれば効果が期待出来るだろう」と指摘した。

羽場久美子教授は「東アジアでさまざまな問題が起こっているのは、パワーバランスの変化が起こっているからだ。たとえば現在、日本と中国の経済力を合わせれば、米国に匹敵、あるいは米国をしのぐような状況になっている。これこそパワーバランスの変化だ。アジアには現在、TPP(環太平洋経済連携協定)を含めて13のオーガニゼーションがあるが、大半にロシアや米国が参加し、アジアの国だけによるものは実は少ない。アジアの経済的コアを作り、利益を伴う経済的協力関係を強化することが解決策になるかもしれない。国境は守った上で、食糧や疾病などで協力関係を深め、共通のシンクタンクを作り、ネットワークを結んでいくことが大切だ」と述べた。