今月1日、欧州連合(EU)とベトナム間の自由貿易協定(EVFTA)が発効した。関税引き下げなどの恩恵を受けて、ベトナム企業にとっては、新たな商品輸出の大きなチャンスとなり得る。だが、新市場の開拓には、欧州基準でのコンプライアンス(法令順守)が求められ、これがベトナムにとって最大の課題となりそうだ。 

◇欧州進出の可能性とハードル
5億人以上の人口を抱えるEUは、域内を合わせた国内総生産(GDP)が15兆ドルにのぼり、これは世界GDPの22%に相当する。市場として非常に大きいだけでなく、輸出も輸入も世界最大規模で、貿易黒字は3.8兆ドルになるという。
このような数字をもとに、ベトナム商工会議所(VCCI)傘下にあるWTO 国際トレードセンターのグエン・チー・トゥ・チャン所長は、欧州連合市場がもつ大きな可能性を指摘する。

ベトナムからEUへの輸出で強みを見せるのが靴や履物類だ。EUの靴輸入の11%をベトナム産が占めているという。一方、ベトナム産の果物や野菜の輸出は3%に過ぎず、それ以外の商品の輸出量らに小さい。言い換えればベトナム企業進出の余地が大きいとチャン氏は分析する。

EVFTAでは、あらゆる輸入関税の税率が引き下げまたはゼロ化され、これがベトナム企業にとって追い風となり得る。例えば魚介類は、この8月1日をもって輸入関税が撤廃された。

雑貨を海外へ輸出するティエンダット社(ハノイ市)のグエン・バン・チュイエン社長は、「EVFTAは企業に新しいチャンスを提供してくれる」と前向きにとらえている。同社が扱う木材加工品や雑貨類は現状では10%の関税がかけられているが、EVFTAによって、今後関税が引き下げられ、6年後には撤廃される予定だ。「主力製品の関税率や製品輸出にかかわる法律が、EVFTA発効後、どのように変化していくのか見極めているところだ」と話す。

このような状況の変化とともにベトナム企業は、自社のコンプライアンス(法令順守)基準も欧州のものと適合させる必要があり、これが生産性の低下や商品の値上がりなどにつながるとの懸念がある。

ベトナム水産物輸出加工業者協会(VASEP)のレ・ハン副会長は、「ゼロ関税などの恩恵を享受するためには、輸出業者は原産地表示などについて理解し、正直に厳密に適用するほか、原材料などの調達規制などを強化する必要がある。また、食品安全や衛生管理など徹底、労働や環境に関する基準の順守なども必要になってくる」と、関連企業などに呼び掛けている。

◇課題は法令順守
法令を順守するための対応は、さまざまな製品の生産コストを引き上げることになる可能性がある。経済専門家のボー・チー・タイン博士は、「EU市場に進出をねらうベトナム企業にとって、法令順守にかかるコスト上昇が、最大の課題となるだろう」とにらむ。

また、予想もしていなかった新型コロナウイルスの世界的まん延がサプライチェーンを寸断し、投資や貿易の流れを大きく変えた。その影響を受けて、EU市場の商品需要や輸入構造、市場管理などは今後も大きく変化すると予想され、EVFTAを転機ととらえ、新規に欧州市場を開拓したいと考えるベトナム企業は、これらの動きに十分な注意を払う必要がある。

タイン博士はまた、コロナ禍で会合開催の基準やその手法など、企業は自社の製品製造の過程で採用される技術や経営手法を革新させ、デジタル化も進める必要があると指摘する。
ベトナム国際仲裁センターのチャン・フー・ヒュイン所長も、「EUの検査制度はたいへん厳しい。ベトナムの企業は、法律や企業の法令順守、欧州流の消費者文化や企業間のパートナーシップ構築について学び、欧州の基準や要件を満たす必要がある」と、欧州市場への新規進出を狙う企業に助言している。