ベトナム、ASEAN議長国の任務を全う RCEP合意の成果残す

アジア太平洋地域に自由貿易圏を構築する「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」が、11月半ば、合意したことによって、ベトナムは今年のASEAN(東南アジア諸国連合)議長国の任務を終えた。提携実現に向けた政策も実施方法も、柔軟かつ革新的だったと高い評価を受けたベトナムの、アセアンでの今年1年間の活動をふり返る。

2020年のアセアン議長国としてベトナムは、加盟各国とともに、今年のテーマとして設定された「団結し、即応する(Cohesive and Responsive)」を実現するために、努力を重ねてきた。昨年、ベトナムが提示したこのテーマは、新型コロナウイルスの世界的感染拡大によって、くしくも予言のようなスローガンとなった。

3月初旬にベトナム南中部のダナン市で開かれた26回アセアン経済大臣会議は、各国の経済協力とともに、世界的な新型コロナ禍への対応なども検討され、加盟各国が提携合意に至るための基礎固めとなった。コロナ禍にあっても、オンライン形式での会議や相談がその後も頻繁に開かれ、おかげで、ブロック内での協力体制の維持や、東アジア圏の効果的で迅速な新型コロナ対応が継続的に実施できたという。

ベトナムのグエン・スアン・フック首相は、「『団結し即応する』は、2020年のテーマであっただけではなく、アセアンの本質でもあると示すことができたのではないか」とふり返った。

経済協力の面でいうと、ベトナムはアセアン議会に対して13の議案を提示し、このうち8件はすでに達成された。残る5件も年末までに実現される見通しだ。これらの方針は、域内での貿易交流を維持し、新型コロナの感染制御やその後の回復にあたって域内の協力を強化することをねらいとされたもので、「アセアン域内での経済協力強化に向けたハノイ行動計画」と「新型コロナに対応したサプライチェーンの接続強化」といった案件が、6月4日の経済大臣会合で承認された。

また、11月10日開催の第19回アセアン経済共同体理事会では、各国の大臣らがハノイ行動計画実現に向けた第一歩として、域内の関税撤廃の扱いについての覚書に署名した。

◇RCEP合意の成果
なかでも、最重要の成果となったのが、世界最大規模の貿易協定となる「RCEP=東アジア地域包括的経済連携」だった。約8年間の交渉を経て、11月15日、インドを除く15カ国が承認し、署名を行った。

アジア太平洋地域にまたがるこの貿易協定は、アセアンの10カ国と中国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドが承認。一帯は、26兆2000億ドル規模の経済圏となり、世界生産の約3割を占め、世界人口の約3分の1を抱えることになる。

フック首相は、「アセアンと加盟各国は、明るい展望が見える新たな経済と貿易協力に向け、莫大な準備と仕事を成し遂げた。RCEP合意は、アセアン経済協力体の構築とさらなる協力を促進し、われわれは繁栄を分かち合う、ダイナミックで力強いパートナーとなるだろう」と語った。世界銀行が2018年に行った予測では、RCEPの実施はベトナムの国内総生産(GDP)を、2030年までに0.4%引き上げるとされた。

商品やサービス、投資市場などの門戸を加盟各国が互いに開くことに加えて、RCEPは、関税手続きの簡略化や原産地表示のルール作りなどで貿易をより簡単にする。輸入関税の引き下げは、情報通信や情報技術、繊維や繊維製品、くつ、農産物といった分野から新たな製品を貿易する新たな機会を創出することにつながる。また、企業が地域内、そして世界の原材料供給網(サプライチェーン)に加わるための重要な手段となり得るという。

チャン・トゥアン・アイン商工相は、「RCEPが実行されれば、ベトナムの企業が市場を開拓し、域内のサプライチェーンに加わり、海外投資を集めるチャンスが増えることにつながる」とした。

RCEPの実現を支援するため、政府や関係当局が情報発信をする必要があるとアイン商工相は指摘するが、一方で、企業側も自発的に情報を集め、自ら機会をつかみにいく必要性を指摘。「ベトナム企業は考えを転換し、他国との競争を『圧力』ではなく、改革と発展の推進力だと考えるべきだ。RCEPやさまざまな自由貿易協定は、中長期経営計画を変更して率先してビジネス環境の変化に対応しようと動く企業に利益をもたらすだろう」と語った。