故郷を遠く離れてテト祝う海外在住ベトナム人ら

新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大してから2年近くが過ぎ、今年1月1日、ようやくベトナムに到着する国際航空定期便の一部が再開された。しかし、強い感染力をもつとされる変異株、オミクロンの流行と旅客運賃喉頭によって、海外在住の多くのベトナム人たちにとってはふたたび、家族の再会のかなわないテト(旧正月)となった。

◇故郷を離れて
ドイツのハンブルグ市に暮らすホアン・チー・タイン・トゥイさんは、新型コロナのまん延によって、故郷を遠く離れてテトを祝わざるを得なくなった数百万人の海外在住ベトナム人のひとりだ。トゥイさんの家では、テトが近づくと親戚らが一同に集まり、四角に形作ったもち米の伝統料理、バインチュンを作ったり、春巻きや豚肉のパイなどのお供え料理を準備したりするのが習慣だった。トゥイさんは今でも、薬草やかんきつ類の皮、パクチーなどのハーブ類の香りを鮮やかに覚えているという。テト初めての来客新年の幸運を運ぶと信じられているため、年が明けるとすぐに両親が訪問し、彼女の家族の幸せを祈ってくれた様子も、鮮明に目に浮かぶ。

新型コロナによる社会的隔離などの影響もあって、家族を伴い海外に移住している人たち以上に、ベトナム人の留学生たちは孤独だ。従来は学生たちに楽しいテトのひと時を提供していた各地のベトナム人留学生協会などが、恒例だった年末の食事会や大みそかのイベントなどを開催することができず、留学生らは同郷の知人友人らと交流する機会を奪われてしまったからだ。

ハー・キム・アインさんは、コロナ禍のフランスで2度のテトを経験している。「1年目の昨年は、ひとりでテトの食事を作り、故郷に電話をかけて家族や親せきに新年のあいさつをしました」。

新型コロナの感染状況が複雑化し、今年もアインさんはテトの里帰りを実現できなかった。午後6時以降の外出禁止令が出されていたので、授業が午後5時に終わると慌ててベトナム食材を扱う店に急ぎ、バインチュンを買ったという。幸いにも、帰郷できず寂しい思いをしている友人数名と集まることができ、「少しはホームシックが和らいだ」という。

◇伝統を受け継ぐ
ホアン・チー・タイン・トゥイさんは、自分のようにドイツに暮らす親たちはテトのこの時期、「ベトナムの文化や伝統を子どもたちに受け継がせることに関心をもっている」と話す。そこで、多くの海外在住ベトナム人の親たちは、子どもたちにバインチュンや春巻き、豚肉のパイなどの伝統の料理の作り方を教え、子どもたちに伝統の衣装を身に着けさせる=写真㊦。

パリに暮らすファム・ミン・ズックさんは、「海外在住のベトナム人のために、ベトナムの食材が売られるようになり、便利になった」と喜ぶ。だが、誰もがテトを盛大に祝うことができるわけではない。

台湾で働くビンさんは、「テトであっても、ここでは通常どおり仕事に行かなければならなかった」とため息をつく。準備に時間を割く余裕もないため、彼女は友だちとベトナムの食材などを扱う店に行き、出来合いのバインチュンや春巻きを購入。干しタケノコのスープと玉ねぎの漬物といった簡素な料理が、大みそかのささやかな祝いの食事になったという。