ベトナム南部メコン川流域に広がるメコンデルタは、ベトナムの主要な米どころであり、多くの豊富な魚介類と果物を産出すると同時に、これらを海外へと輸出する貿易の重要拠点でもある。だが、一帯は今年、未曾有の干ばつと、新型コロナウイルスという厄災に相次いで見舞われた。2つの前例のない打撃からの回復に向け、さまざま支援や試みが始まっているという。

◇二重の打撃
メコンデルタ地域は、ベトナムの米や農産物の主要生産地で、一帯の農産物生産量は2019年には85億ドルを超えている。メコンデルタからの海外輸出品の56.7%を農産物やその加工品が占めており、ベトナム全体で見ても農産物輸出額の20.1%がメコンデルタから出荷されていた。

コメの生産量は、金額ベースでみると、全ベトナムの生産量の8割を占め、ナマズの一種、パンガシウスの95%、エビの60%、果物の65%がメコンデルタ産だ。流域の各省はいずれも、新たな投資機会をものにしようと、それぞれの強みである農産物を開拓し、農業経済分野への投資を行うことに力を入れてきた。

だが、2020年の年初、事態は一変した。一帯はかつて経験したことのない干ばつと塩害に見舞われ、その被害は2016年のエルニーニョで受けた被害を超える規模となった。ある調査では、メコン川河口から68キロも上流にさかのぼった地域でも、川べりの田畑の土壌塩分濃度がコメの栽培に不適とされる濃度を超えた。多くの省や市では、家庭用水道水も不足した。

さらに、世界的に広がった新型コロナウイルスが、多くのサプライチェーンを分断し、国内消費者の需要を引き下げ、メコンデルタ農作物や加工食品の製造出荷が停止を余儀なくされた。輸出入活動のほとんどが停止されたことから、企業は農産物や海産物を購入することをやめ、その結果、収入が途絶える小規模生産者も少なくなかった。その結果、農家や生産者らは、再投資するための資本が底をつき、彼らの生活にも深刻な影響を及ぼしている。

ベトナム商工会議所(VCCI)カントー支部のグエン・フォン・ラム支部長は、「新型コロナウイルスの感染拡大は、ベトナムのあらゆる生産分野や企業経営に悪影響を及ぼしたが、特にメコンデルタでの被害は大きい」と話す。

メコンデルタの企業は農業や海産物の養殖業、そして農産物や海産物の加工品製造が中心で、ただちに生産が止まることはなかったために、この分野での新型コロナの影響の衝撃はいくぶん、やわらげられたといえる。だが、関連サービス、観光とホテル業は感染拡大と同時に全事業が停止を余儀なくされ、貿易も被害が大きかった。EUや米国、中国、日本や中近東諸国などの主要市場が受注を大幅に減らしたことで、当初は影響が少ないと見られた農業や食品加工などの分野も、波及的に打撃を受けた。

今年1~7月、メコンデルタの主要な輸出項目の多くが激減した。果物は前年同期比21.4%減、パンガシウスは同39.1%減、エビも同14.5%減少した。輸出先を失ったため、多くの農産物生産者や農産品加工会社は過剰な在庫を抱えることになり、新たな生産を停止せざるを得ない状況になっている。

一方で、欧州とベトナムの間の自由貿易協定(EVFTA)が発効されたことは、一筋の光明となった。農産物や海産物の多くに課せられていた関税が引き下げまたは撤廃になったことで、今後、メコンデルタの農産物や加工食品の生産と輸出の回復にはずみがつくことが期待されている。

◇成長の回復のために
農業農村開発省が行った調査によると、干ばつと塩害で被害を被った水田は4万1900ヘクタール、果樹園が6650ヘクタールだという。さらに、数千ヘクタールの野菜の畑と8715ヘクタールの魚介類養殖場が、関係者らの懸命の努力にもかかわらず、被害を受ける結果となった。

「自然環境や気候の変動、そして市場の状況に臨機応変に適応していくために、メコンデルタは、加工業や資源開拓、そして土地開墾や生産、収穫、加工に至るまでの工程に科学技術の進歩を応用させることが必要だ」と農業農村開発省は指摘する。

また、農産物の価格向上のために生産連携を促進するだけではなく、高い技術基準や加工手法を応用し、ブランドを構築して消費者市場を拡大するなど、多方面からのアプローチが必要とされる。これらの複合的な成果が、生産者の収入増加につながり、バリューチェーンに沿う経済モデルの開発と普及が促されることになるだろう。

主要な農業生産物の価値を高めようと、メコンデルタ地方の拠点となるカントー市では、生産組合が最先端の科学技術の応用に投資するなど、回復に向けた前向きな動きが見られるようになったという。

カントー市商工局では関連産業と提携し、企業が生産効率を向上させ、貿易を促進する支援策を展開。商工局のグエン・ミン・トアイ局長は、「メコンデルタの農産物と養殖漁業の供給と、他地域の需要を結び付ける試みに重点を置いて活動を進めている」と話す。また、安心安全な食品や製品、地域の特産品、地域ブランドなどの広告を発信するほか、企業や生産組合などが業務の効率化や改革を進める支援も展開していくという。