もち米の粉で作る小さな人形、トーヘは、旧正月や中秋節を彩る風物の一つだ。ダン・バン・ハウさん=写真=は、そんな〝食べられる芸術品〟を作る、おそらく国内で最年少のアーチストだ。この道20年。伝統の技に今風のテイストをプラスし、SNSなどを使って国内外に魅力を発信している。

ハウさんの仕事場には、大小様々なトーヘが並んでいる。立ち姿から座っているものまで、ポーズは様々。新作から数年前の作品まで、その数は数千個に上る。

もち米の粉だけで動物や花、民話に登場する人物を、わずか数分で作り上げてしまうハウさん。慣れた手つきで巧みに人形を作りながら、「先祖から代々伝えられてきたトーヘこそ、ベトナム文化の神髄だ」と熱い思いを語る。

1985年、ハノイのフースエン県スアンラ村に生まれた。子供のころから、色鮮やかなトーヘに興味を持ち、母型の祖父から作り方を教わった。当時、近所の人にはトーヘを知らない人も多かった。ハウさんは、トーヘがより長持ちし、発色が鮮やかになるように独自の工夫を重ねてきた。

「昔は、トーヘと言えば、旧正月や中秋節、村祭りのときくらいにしか作られなかった。日持ちするのも3日から5日。季節ものなので、収入が安定せず、職業として成立しにくかったこともあり、忘れ去られつつある存在だった」

そんなトーヘの魅力をより多くの人に知ってもらおうと、ハウさんは国内だけでなく海外への周知や普及活動にも力を入れている。フェイスブックやウェブサイトを使って、情報を発信。反響は大きく、新型コロナウイルス流行下で、イベントが中止になり、店舗が営業できない条件なのに、数多くのオーダーが入っているという。今では、伝統文化のリバイバルとして、再び旧正月の出店などで売られる日が来ることを確信している。

ハウさんは、季節や暦、祭に祭り応じたコレクションを創作。伝統的な人形のスタイルを今風のテイストにリアレンジしているのが特徴だ。作品は、350万ドン(約1万7000円)で販売されている。