4月6日は、ベトナムの祝日、「フン王記念日」だった。北部フート省では、ゆかりの5地域の住民らが、ベトナム初の王国を樹立した伝説のフン王を称え、伝統行列を行ったほか、祭壇に供え物を捧げる儀式などが厳かに繰り広げられた。

フート省のチューホア村、フンロー村、ベトチー市のキムズック地区、ティエンキェン村とラムタオ地方フンソン村の5つのグループが、この日、フン王が儀式などを執り行っていたとされる聖地、ギア・リン山のフン王を祀る寺に集まった。一行の行列は獅子舞が先頭を切り、ベトナム国旗や祝祭旗などの担ぎ手に、儀式にのっとって伝統の太鼓や銅鑼(ゴング)などを演奏する一行が続き、境内を練り歩いた。

行列のハイライトは、武器を模した飾り物や日傘などを掲げた一団と、ベトナム伝統劇の役者や地元の人々による伝統行列だ。一行は、伝統の衣装に身を包み、それぞれの地域の特産品や、もち米をゾンの葉で包んだ伝統料理「バンチュン」などを、寺に設けられたフン王らの祭壇に捧げた。

フン王の命日とされる旧暦3月10日(今年は新暦の4月6日)の祭事は、何千年もベトナム人に受け継がれていたもので、ベトナムの文化的特徴を象徴するだけでなく、国民の結束も強めている。このため、フン王の崇拝儀式は2012年にユネスコの無形文化遺産に登録されている。

祭りの実行委員会によると、このような伝統行列を再現するようになったのは、7年前からだという。寺の境内ではこの日、バンチュンづくりのコンテストも開催され、13の地域から14チームが出場し、調理の手際の良さや味を競った。優秀とされた2チームのバンチュンは、その後、フン王の祭壇に捧げられた。

ベトナムの伝説では、ラック・ロン・クアンという王がオウ・コーを妻としたところ、夫妻の間には、100個の卵から100人の子どもが誕生したという。母親は半数の子を連れて高地へ、父親は残る半数の子とともに海へ行き、ベトナムを開拓したと伝えられる。

このうち、フォンチャウと呼ばれていた土地(現在のフート省)へ行った息子が、後のフン王で、紀元前2879年にベトナムの歴史上初の国家とされるバンラン国を興した。バンランはフン王の家系が18代にわたり統治し、農民に稲の水耕栽培などを教えたと伝わる。一帯でもっとも高いギア・リン山では、農作物の収穫を占うため、歴代の王らがさまざまな儀式を執り行っていたという。

現在ではこの場所にフン王とバンラン国の代々の王をまつる寺院が山中に建立され、旧暦3月10日が彼らの命日とされている。フン王をまつる儀式はベトナムの先祖礼拝と深く結び付いており、現在においても多くの家族がしきたりを守り、人々の精神のよりどころとなっている。